日本の人口が減少し、国際競争力が低下する中、改めて企業の存在意義が問われる時代になった。くしくも世界的にはSDGs(持続可能な開発目標)がスタンダードになりつつあり、その視点からも「この会社はなぜ必要なのか」ということを考えることが求められるようになっている。

 そんな中、注目され始めたのが「パーパス(Purpose)経営」だ。企業が社会に与える価値を視野に入れ、自らの存在意義を明確化し、経営戦略を見つめ直すものだ。パーパス経営はさまざまな問題を抱えている資本主義社会の救いの手になるのだろうか。

 2021年10月の衆院選の際、岸田文雄首相は「新しい資本主義」を宣言した。これまでの資本主義システムのあり方に齟齬(そご)や疑念が生まれてきていることがその背景にある。現状ではまだ具体的な方策にまで踏み込めてはいないが、現在の資本主義のあり方に一石を投じようとの意欲は感じられる。

 資本主義は、単純化して言ってしまえば資本の価値を高めることを最優先とするシステムだ。それに貢献できる要素は注目され、力が注がれ、成果を求められる。一方、それらの対象にならない要素への対応は後回しにされる。資本の価値を高めた企業が評価される仕組みだ。

 しかし、この資本主義は資源の無限性や発展途上国に対する搾取、そして今後も資本主義が揺るがないという前提の上に立っている。また、資本価値の向上を優先するあまり、大量の廃棄物を生み出すとともに、地球温暖化をもたらすほどの大量の二酸化炭素を排出することにもなった。こうした問題に向き合う必要が出てきたのだ。

 この反省に立って、資本主義に新たな枠組みを持ち込もうというのが「新しい資本主義」だ。パーパス経営も似た価値観に立っていると言えるだろう。

社会に体する自社の役割を掲げるパーパス経営

 パーパス経営では、自社が社会にとってなぜ必要とされるのかを考え、それを実現する経営基盤を作る必要がある。しかし、そうした基盤は一朝一夕には実現できないのも事実。パーパス経営を目指す企業は、このキーワードが流行する前から、さまざまなアクションを起こしてきた。その1つがESG(環境・社会・企業統治)への取り組みだ。以下の領域・業界を例に動きを見てみよう。

金融市場

 環境、社会、ガバナンスに配慮した企業を重視・選別して投資するESG投資がトレンドとなりつつある。売り上げや収益とは異なる軸で企業を評価するスキームをもたらした。ESG投資はブームにすぎないとの見方もあるが、持続可能な事業を目指し、自社の存在意義に対してしっかりと向き合っている企業へ投資する流れは無視できなくなっている。

 最近では、投資の当事者である金融機関にもパーパス経営が広がっており、そのことがESG投資の流れを後押しする形となっている。そうした動きは下に挙げた業界で見るように、日々強くなってきている。ちなみにESG投資のコンセプトは1920年代の米国で生まれたSRI(Socially Responsible Investment、社会的責任投資)にその源流があるとの見方がある。SRIはキリスト教的倫理の観点から企業への期待を投資行動に反映させたものだ。必ずしもESG投資と同じというわけではないが、「社会からの期待」という視点は100年近くの歴史があることになる。

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