医療のイノベーションで100歳まで健康な人生を実現?

 大きな目標に夢が広がるが、具体的にはどのような研究が進められるのか。今回は「ムーンショット目標7」を取り上げて紹介したい。

 ムーンショット目標7では「2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステナブルな医療・介護システムを実現」と設定された目標の実現のために「日常生活の中で自然と予防ができる社会の実現」「世界中のどこにいても必要な医療にアクセスできるメディカルネットワークの実現」「負荷を感じずにQoLの劇的な改善を実現(健康格差をなくすインクルージョン社会の実現)」といったターゲットを挙げている。

 医療分野の研究開発は、コストがかかる。例えば新薬開発であれば莫大(ばくだい)な資金が必要となり、治験も含めると実用化には非常に長い時間がかかる。ムーンショット型研究開発では「失敗を恐れず挑戦的な研究に取り組む」としているが、どこまで目標を達成できるのだろうか。

・「ミトコンドリア先制医療」

 ムーンショット目標7の研究でまず気になったのが、この「ミトコンドリア先制医療」の研究だ。加齢によって生じるミトコンドリアの機能低下ががん、糖尿病、うつ病などをはじめとした多くの疾病を引き起こすことに着目し、”老人の治療"でなく”老化という"疾患”の治療を目指すものだ。

 そして、腸内細菌とミトコンドリアが互いに連関しているという発見をベースに、40年までに尿や唾液、呼気などを使った生体を傷つけない非侵襲的な検査でミトコンドリアの機能低下を検知。そのうえで、ミトコンドリアに働きかける最適な内服薬、食事、運動を提案し、100歳まで健康に暮らせる医療の実現を目指すとしている。非侵襲的検査であれば、自宅検査や健康診断によって、早い段階でミトコンドリアの状態が分かり、早期に対処できるのも魅力だ。

・睡眠と冬眠:2つの「眠り」の解明と操作がひらく新世代医療

 もう一つの注目研究は、睡眠と冬眠に関するものだ。睡眠負債による社会経済への悪影響は日々深刻化している。米国のシンクタンク、ランド研究所によると、日本は睡眠不足で年間約15兆円を失っており、その額は対GDP(国内総生産)比では世界で最も大きいとされた。主な理由は睡眠不足によるパフォーマンスの低下、そして睡眠負債によって高まる疾患リスクだ。

 睡眠と冬眠のプロジェクトでは、睡眠負債がもたらす疾患に対する予防技術の実用化、健康的なショートスリープ(短時間睡眠)による「生きる」時間の増加、緊急・災害時に死亡率や後遺症を減らすことを目的とした人工冬眠技術の実用化を進め、社会的、経済的にインパクトのある効果を生み出すことを目指している。

 SFの世界でしかあり得なかったコールドスリープ(人工冬眠)の実現や、睡眠メカニズムの解明ができれば、人間をもう一段階大きく進化させると思わせるような研究だ。前述した睡眠負債を減らすだけでも、大きな成果となり、完全な目標達成ができなくとも価値のある研究のように見える。

スタートレックやドラゴンボールといったフィクションが現実になるのかもしれない(画像:PIXTA)
スタートレックやドラゴンボールといったフィクションが現実になるのかもしれない(画像:PIXTA)

次ページ ムーンショットは、野心的研究をどこまで後押しするか