中国でQRコード決済が復活した

 一度はマーケットから退場を余儀なくされたQRコード決済が、再び脚光を浴び始めたのが10年代前半。舞台は経済成長著しい中国だ。11年に中国のEコマース最大手であるアリババ傘下の「Alipay(アリペイ)」がアリババに出店しているパートナーの実店舗で利用する支払い方法としてQRコードを導入。15年から爆発的に増加した。

 また、14年ころには、テンセント傘下の対話アプリ「WeChat(ウィーチャット)」で決済ができる「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」も拡大し始めた。その後、中国におけるQRコード決済は爆発的に普及することになる。中国のカード決済大手、中国銀聯のリポートによれば、20年には決済手段の85%を占めるほどにまで浸透している。

 日本で普及し始めたのは、「○○ペイ」と名の付くQRコード決済業者が乱立した10年代後半。政府が現金決済から電子決済への移行を推進したこともあり、決済業各社はシェア獲得を目指し、QRコード決済によるキャッシュバック・キャンペーンを大々的に展開した。

 中には利用金額の10%を超える高い還元率のキャッシュバックを受けられるものも登場。これを機に高額商品を購入しようとする客で、家電量販店のレジ前に連日長い行列ができた。その熱狂ぶりはメディアでも幾度となく報道された。こうしたキャンペーンがきっかけとなり、利用者は増加していった。今では、コンビニから個人商店まで、QRコード決済は一般的な決済手段として認知されるようになった。

 一方、日本と中国以外の国でも、QRコード決済の裾野は着実に拡大している。米国では、20年にPayPalがQRコード決済サービスを開始。大手スポーツ用品店やドラッグストアを含む100万店舗以上が同社の決済システムを導入した。同じく米国のカード決済サービスであるSquareも同年にQRコードを利用した決済サービスを開始している。

 オーストラリアでは、デビットカード決済サービス大手のeftpos Paymentsが22年までにQRコード決済システムを導入することを21年2月に公表。その他にも、欧州やアジア諸国で次々とQRコード決済サービスが立ち上がるなど、世界的な拡大を見せている。

 近年、急速に世界的な盛り上がりを見せているQRコード決済だがその背景には新型コロナウイルスの世界的感染拡大も影響している。現金による支払いは、人を介する接触型の決済だった。しかし、パンデミックによって他人との接触に抵抗を感じる人が急激に増加した。そんな折、注目されたのが「QRコード決済」だ。QRコード決済なら、コードを読み取るだけで支払いができるため、他人と触れることなく決済できる。

QRコード決済の正念場はこれから

 QRコード決済が抱える問題はセキュリティーだ。QRコード決済はその仕組みがシンプルで利用しやすいとはいえ、システムを介することによる脆弱(ぜいじゃく)性のリスクはついて回る。日本では、19年7月1日にセブン&アイ・ホールディングスが始めた「7pay(セブンペイ)」が記憶に新しい。セブンペイは、サービス開始直後から利用者による不正利用の報告が続出した。このためサービス開始からわずか3日後には新規会員登録を停止。その後、約4000万円もの不正利用による被害が明らかになり、9月30日にはサービス終了へ追い込まれた。

 QRコード決済のセキュリティー上の懸念は不正利用による被害だけではない。CPM方式の場合、利用者が店舗のコードを読み取ることで決済する。しかし、コードを悪意を持った第三者によってすり替えられてしまうと、意図しない相手に送金してしまうリスクがある。レジ前に置かれているQRコードが偽物であるかは一見しただけでは判断できないからだ。

 リスクはあるものの、急拡大を見せるQRコード決済は、世界的に見ると今後も利用者を伸ばし続けるだろう。世界一の消費大国である米国を含め、主要なマーケットはようやくQRコード決済が普及し始めた段階だ。それだけに伸び代は決して小さくない。しかし、パンデミックが収束した後もQRコード決済が拡大を続けるかは不透明だ。グローバルでのパンデミックによって加速した利用拡大が、コロナ禍の収束とともに勢いを失うかもしれない。

 日本も似た状況だ。日本における電子決済シェア拡大を目的に、経済産業省は19年10月から「キャッシュレス・ポイント還元事業」を実施。総務省は20年9月からマイナンバーと連携したマイナポイント制度を導入した。また、事業者は利用者へ向け、還元率の高い大規模キャッシュバック・キャンペーンを繰り返してきた。店舗側へは、導入キャンペーンとして、MPM方式による決済手数料を無料とした。しかし、それらのほとんどが終了した今(マイナポイントの付与は21年12月まで)、消費者や店舗がQRコード決済の利用を続けるには、キャンペーン以外の利便性に価値を見いだせるかにかかっている。

 店舗にとってはMPM方式の決済手数料無料期間が終了の影響が最も大きい。今後はクレジットカードと同様に決済に手数料を取られることになる。21年8月、PayPayは同年10月以降加盟店手数料を1.6%にすると発表。他社もほとんどが10月から有料化する。手数料率はクレジットカードに比べ低いものがほとんどだが、手数料コストを負担に感じる店舗(特に小規模店舗)は現金決済に戻ってしまうことも考えられる。

 決済で収集したデータを店舗がマーケティングに活用できるようにしたり、中国のアリペイのように決済の利用者に金融機関からの融資をはじめとした金融サービスを紹介したりするなど、決済以外のサービスが提供される可能性はある。そうした中、QRコード決済は今後も決済手段として拡大を続け、利用者をつなぎとめられるか。これからが正念場となるだろう。

(執筆者=東雲八雲)

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