映像コンテンツの変化は目まぐるしい。顕著なのが「短尺動画」の台頭だろう。映画館やTVでの視聴体験をフランス料理と例えるならば、短尺動画は一口サイズのオードブルのようだ。時代変化によって生まれた視聴体験、短尺動画について解説する。

女子高生認知度100%のTikTok誕生の経緯

 各社が高速通信規格「5G」スマホを投入、使い放題サービスも一般化し、以前よりも動画の視聴や投稿は市民権を得つつある。そんな中、日本ではTikTok(ティックトック)が存在感を示している。

 2017年に日本でサービスが始まったTikTokは15秒の動画投稿と視聴ができるプラットフォームだ(その後、投稿できる動画の長さは60秒となり、21年7月より3分となっている)。タイムライン上に大量に動画が投稿され、AI(人工知能)が自動的に動画をリコメンドして提供してくれる。撮影機能も充実しており、スマホを使って撮影から編集、投稿ができる。短尺動画の中で、ダンスをしたり歌ったり、はたまた、アニメーション作品を投稿したり、ライブ動画を発信したりと使い方はさまざまだ。

 20年の12月にLINEが発表した調査によると、女子高生のTikTok認知度はほぼ100%で、利用者は46%にもなる。この調査はスマホアプリを使ったアンケートだったこともあり実際より若干高めな結果となっていると思われる。だが、TikTokはもはや若年層にとって、なくてはならないサービスとなっている。

 TikTokのベースとなったサービスは幾つかあるが、その中でも2つのサービスを紹介しておきたい。1つは13年に正式リリースされたVine(ヴァイン)だ。

 投稿できる動画はたったの6秒。設立当初からユーザーの注目を集め、13年1月の正式サービス開始前の12年10月にTwitter社に買収された。若者を中心にブームとなり、サンリオピューロランドやユニクロなどの日本企業も広報やプロモーションのツールとして使っていた。買収元であるTwitterには、動画の投稿機能がなかったため、Twitterと連携して使えるサービスとしてユーザーニーズが高かった。

 しかし、15年1月にはTwitterでも動画投稿ができるようになる。ティーンエージャーの利用者が多かった写真共有アプリInstagramなども動画機能を拡充したため、Vine単体としてのニーズは低下していった。その結果、明確な理由は明らかにされないまま、17年1月にサービスは終了してしまう。一時は短尺動画の覇権を握ったかに見えたものの、最後はあっけなかった。

 もう1つは、14年8月に北米でリリースされた「Musical.ly」だ。人気歌手の音楽に合わせた15秒の口パクを投稿してシェアできる。素人でも気軽にオリジナル動画を投稿でき、注目されるのが魅力だ。北米のセルフィー(自分撮り)文化にマッチしたこともあり人気となった。初期のころはレーベルに無許可で音楽データを使った投稿ができるグレーな面もあった。その後は音楽配信サービスと連携。アーティスト側もプロモーションに活用するなどオフィシャルなサービスとして人気を博した。

 もちろん既存の動画プラットフォームのYouTubeなどでも口パク動画は投稿されていた。しかし、Musical.lyは口パク動画に特化した短尺のサービスであることをアピール。従来のSNS(交流サイト)とは違う魅力でユーザーを着々と増やしていった。そして、その独自性の高さとユーザー数の多さから17年9月にある中国企業によって買収されることとなる。

 その企業こそが、TikTokを運営する中国のByteDance社だ。12年に設立された同社は動画をメインにしたSNS「Flipagram」などの企業を買収して巨大化しつつあった。今では世界のユニコーン企業の筆頭として挙げられる企業だ。買収後、2つのアプリケーションは統合された。

短尺動画の広がりで視聴行動が大きく変化

 短尺動画はせっかちな若者向けの動画サービスだという意見もある。

 事実、短尺動画でありながら、ユーザーは0.5秒程度というさらに短い時間で見る見ないを直感的に判断している。これは若者にこらえ性がなくなったからではなく、動画をフリックして切り替えて視聴できる仕組みになっているからだ。

 スマホでの視聴シーンは、隙間時間やリラックスタイム、はたまた学校の休み時間や通学中などさまざま。こうした視聴シーンでは、2時間の映画を見るというのはイメージしづらい。しかし、短い動画であれば、余暇として使える時間に合わせた視聴が可能だ。

 また、画角が横だったこれまでの動画と違って、撮影や視聴が縦にシフトしているという変化も起きている。スマホ向け動画として縦に撮影されたものは、縦動画として消費されることになる。

スマホで縦に撮影された動画は縦で消費される。縦動画は多人数よりも1~2人程度での撮影に向いている(写真:PIXTA)
スマホで縦に撮影された動画は縦で消費される。縦動画は多人数よりも1~2人程度での撮影に向いている(写真:PIXTA)

 こうした流れの中、音楽サービスでも音楽の聴き方に変化が起きている。ネット上で聴き放題サービスが乱立する中、新たな楽曲に出会う機会は格段に増えている。そんな中、曲のイメージを形作る要素の一つであるイントロがここ最近顕著に短くなっているのだ。

 カラオケだとイントロがスキップされがちなスピッツのロビンソン。B’zの代表曲であるLOVE PHANTOM。定番曲としてエレキギターを持ったら誰もが演奏するDeep PurpleのSmoke on the Water。こうした長いイントロを持つ曲は、数多くの曲の中から好みの曲を探す最近のユーザーには不向きだ。

 このため洋楽邦楽を問わず、意図的にイントロは短くなってきている。米津玄師やYOASOBIなどは顕著にメインメドレーの開始が早く、中にはサビから始まる楽曲も多い(例外と言えそうなのはOfficial髭男dismのPretenderで、30秒とイントロが長い)。

 動画、音楽、そしてアニメでも、とにかく短い時間でユーザーに興味を持ってもらうことが重要なのだ。従来の動画では質の高さや出ているタレントの好感度などを重要視してきた。だが、今は「早く相手の心をつかむ」ことの優先度が高まっている。

 ちなみに、個人による情報発信の仕方も変化してきている。日本に限らず、若者は自分の顔をコンテンツとして出すことへの抵抗感が小さくなっている。自分をセルフプロデュースしながら露出することは当たり前だ。年長者から見るとネットに顔出しするのは危ないと言いたくなるが、それが今の時代なのだ。

TikTokを追従する短尺動画サービス

 世界的な短尺動画トレンドを作り出したTikTokに対し、他社はその独走を放置しているわけではない。写真共有アプリのSnapchatやInstagramなども動画機能を拡充してきている。動画サービス最大手のYouTubeも21年7月、最長60秒の短尺動画を作成できる新機能「Shorts」のベータ版を日本でもリリースした。クリエーター支援のための1億ドルの基金「YouTube ショート ファンド」を設立すると発表するなど、短尺動画市場の覇権を狙い攻勢をかけている。

 国産サービスとしては、短尺のバーティカル(縦型)動画の視聴に特化した「smash.」がある。SHOWROOM(東京・渋谷)とKDDIが業務提携して始めたサービスでクオリティーの高い比較的長めの短尺動画を楽しめる。

 今後、短尺動画は大きなうねりとなって動画コンテンツ業界をけん引することは間違いないだろう。TikTokが勝者であり続けるのか。他のサービスが利用者を獲得して巻き返すのか。今後の展開を注視していきたい。

(執筆=安部良)

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