ビジネスシーンで共通言語として使用されつつあるキーワード。「知っているだけでビジネスが数百倍変化し、万事上々に運ぶ」ことまでは期待できないが、知ることで問題解決の糸口につながることはある。今回は、そんなキーワードとして市民権を得つつある目標設定のためのフレームワーク「OKR」をわかりやすく紹介する。

みんなが知っている「さるかに合戦」

 仕事に限った話ではないが、ただ闇雲に向き合っていても困難な目標を達成することはできない。それでもたった一人の小さなビジネスであれば、まだやっていけるかもしれない。だが、企業という組織・チームが、漠然とした方向性しか持たなければ大成功のシナリオに行き着くことは難しい。それが感じられる昔話「さるかに合戦」を用いて、今回はフレームワーク「OKR」を解説したい。

【さるかに合戦あらすじ】

 カニはサルにいじわるをされ、持っているおにぎりと柿の種の交換を持ちかけられる。しぶしぶ柿の種に交換したカニ。土に植え、無事柿は実ったものの、はさみでは木登りができない。サルは木に登り、カニの育てたおいしそうな柿を根こそぎ食べてしまう。揚げ句の果てには、サルは熟していない固い柿をカニに投げつけ殺してしまう。

 殺されたカニの子供は、サルへの復讐(ふくしゅう)を考えて同じくサルに困っている「栗」「蜂」「臼」*に協力を仰ぎチームを結成。栗、蜂、臼は、サルの自宅に潜んで待ち構えることに。自宅へ帰ったサルが囲炉裏の火にあたっていたところ焼き栗が飛び出し、サルに直撃。やけどしたサルは、あわてて冷やそうと水桶(みずおけ)に近づく。が、そこには蜂が。蜂に刺され、パニックになりながら家から飛び出したところ、屋根の上にいた臼が落下。サルの頭上に直撃し、無事懲らしめられました。

*作品によっては牛糞(ぎゅうふん)が追加される

カニはなぜ復讐を実現できたのか

 登場人物ごとに能力を分解していこう。

【サルチーム】

(サル)ずる賢くすばしっこく、個の能力では他を圧倒する。他と協調することは苦手で自分さえ良ければいいという考えの持ち主。

【カニチーム】

(カニ)ダイバーシティな組織をまとめあげ、サルへの復讐という共通目標を達成させる。ただし、サルに勝てるほどの戦闘能力はない。

(栗)焼き栗になることで、相手を驚かし、やけどを負わせることができる。囲炉裏などで待ち伏せることが必要。

(蜂)針で刺すことにより、痛みとパニックを与えることができるが、殺傷能力はない。

(臼)自身の重さで相手を押しつぶすことができる。ただし、機動力はなく自由落下による衝撃しか期待できない。

 カニチームは、個々がとがった能力を持っている。サルに対する復讐へのモチベーションは高い。だが、サルと個々にぶつかりあっても相手の能力を上回ることができないのは、漠然と理解いただけるだろう。カニはチームによって実現することを選択。チームマネジメントを行って目標を達成している。この定性・定量の目標設定のフレームワークはOKRに置き換えて語ることが可能だ。OKRとは、Objectives and Key Resultsの略で「Objectives=目標設定」と「Key Results=主要な成果」を指す。

(1)Objectives=目標設定

 カニがチームへと提示した目標は、「憎きサルをコテンパンにやっつける」ということだろう。この目標設定は、定性的でチームを鼓舞する言葉やキャッチフレーズとして設定することが好ましい。ビジネスであれば、「シェアを成長させて世界的な企業になる」「このサービスといえば自社が最高峰と呼ばれるようになる」など、従業員が何度もその挑戦的な目標に向き合いたくなるものを設定すると良いだろう。

(2)Key Results=主要な成果

 目標を実現するために集中して取り組むべき定量指標が、Key Resultsだ。カニチームは個々人がパフォーマンスを最大限に発揮し、目標を実現するために必要となる指標を設定する。このときの指標は、完全達成するよりも挑戦的かつ120%の力で取り組んだ際に実現できるものを設定すると良いだろう。

(栗)(囲炉裏から確実に突撃するため)
・1日1000回火に入り突撃する反復練習を行う
・ヒット率を99.5%以上にする

(蜂)(突然飛び出し刺すため)
・飛び出してから1.5秒以内にターゲットに刺す
・飛行する音を軽減する

(臼)(確実に猿を仕留めるため)
・体重を今の10倍にする 

 従前の目標達成型のフレームワークでは、簡単にできる目標設定や、会社として設定された目標がチームまで落とし込めていないという課題があった。OKRを設定することで、各自がより自発的に活動するよう促すことができる。カニチームが、ただ闇雲に全員で突撃していたら復讐は実現し得なかったはずで、作戦の裏側にはこうした努力が存在していたはずだ。

次ページ OKRとMBOの違い