同性婚はいまだ認められず、LGBT理解増進法案に関しても審議が進まない日本。性的マイノリティーやカミングアウトに対する理解に関しては後進国とされている。「ノンバイナリー」を皮切りに、多様な性自認について、今一度確認してみたい。

 皆さんは、「ノンバイナリー」という言葉をどこまで知っているだろうか。いうなれば、自分の性の認識や性表現に「男性」か「女性」かという枠組みを当てはめようとしない考え方を指す。もともとバイナリーとは、2つの要素で構成されているものを指す。コンピューターで使われる2進数のデータ形式「binary」に由来するものとしてこの言葉を知っている人もいるだろう。

 この概念は、欧米の一部で使用傾向が増えている。例えば、署名の欄に、「she/her」(女性認識)、「he/him」(男性認識)、「they/them」(ノンバイナリー認識)と記載欄を設定できる場合がある。

 また、相手に対して「あなたを表す代名詞は?」と聞く場合もある。これまでは「she」か「he」の2択だったが、性別を特定しない「they」が選択肢に入ったのだ。こうした空気感の形成は米国では2019年ごろから本格化。同年、「they」は米国の辞典「メリアム=ウェブスター」が選ぶ「今年の単語」としても取り上げられた。写真・動画のSNSであるインスタグラムでは、自分がどんな代名詞で呼ばれたいかをプロフィール欄に明記できる機能もある。

 米ニューヨーク州では2019年1月より出生証明書に、性別欄には「男性(M)」「女性(F)」に加えて新たに第三の性として「X」と記載ができるようになった。米カリフォルニア州では19年1月、運転免許証や身分証明書などで、ノンバイナリーを自分の性別として選択できる法律が施行された。公共の記載だけでなく民間サービスでも記載の自由が権利化されつつある。

 ノンバイナリーはじめ、性自認・性的表現についての言葉は欧米では一般名詞として普及している。それを反映してか、日本の性別明記欄も少しずつ変化の兆しを見せている。ウェブサービスの登録を行う際、男性と女性の他に「その他」や「回答しない」といった選択肢が増え始めた。

 兵庫県明石市では、20年12月から準備が整ったものから性別記入欄を極力廃止。業務上、性別情報が必要な場合を除き、性別欄を設けないと定義した。こうした動きは、ノンバイナリーだけでなく、LGBTQを自認する人たちにとっても追い風となるだろう。

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