鍋炊きが上手くなれば、ご飯が旨くなる!

この10年ちょっと、いろんな炊飯名人に話を聞いてきたが、現代における炊飯技術の基本は鍋炊きにある。店で炊飯器を使う人もいるが、たいていは火口の数が足りないなどの理由だし、ましてやかまどを使っている名人はほんの一握り。ご飯で評判を取る店の店主は、みな鍋炊き上手だった。
多かったのが、着火から沸騰までにかける時間は5分程度というシェフだ。南麻布「茶禅華」の川田智也シェフもそうだったし、中には3分台で沸騰させる「釣り魚食堂まさき丸」の真崎庸さんのような先鋭もいらした。真崎さんのご飯はさっぱりとした口当たり、食べ飽きない味わいこそを是としていた。つまり、おねば(保水膜)が少なく、しゃっきりとして、口に入れた瞬間にうま過ぎない味を目指していた。
いずれにしても、沸騰までの時間がかかりすぎるとトータルでの煮込み時間が長くなり過ぎて米の表面が軟化し、お米表面のハリが弱くなる。
翻って、多くの名人が採用する沸騰するまで5分程度時間をかける炊き方は、さっぱりとしながらもわかりやすい甘み、うまみも得られる設計だ。炊飯においては、沸騰までの時間を少し長く取ったほうが口に入れた瞬間の甘みと旨み成分が増える。
ちなみに炊き始めから沸騰までの時間をさらに長く取るのが、甘みと旨みに軸足を置いた近年の大手メーカーの炊飯器だ。ただし、圧力系の炊飯器だとどんな米も似たような味に感じてしまいやすい。
一方、名人たちはうっすらとした甘みと旨みだけを米の表面にまとわせて、次なる「炊き干し」のステップへと向かう。水分を米に含ませて、水位を米表面から下げる。この過程で浸水液のデンプンを糊化させつつ、コメ表面に「おねば」「のり」を定着させる。
ここに時間をかけると米は甘みと旨みを獲得できるが、炊き干す速度がゆっくり過ぎると釜の底のほうはつぶれ気味になってしまったり、団子状になってしまう可能性もある。上部と下部でまったく違う炊き上がりになってしまいかねない。香ばしさの層や甘みの層などいくつかの層になること自体はよしとしても、ベッタリした仕上がり部分ができるのは好ましくないのだ。
そして「蒸らし」だが、実はこの工程が必要かどうかはどんな鍋でどう炊くか次第。確かに蒸らしが活きる場面はあるが、炊き方や味わい方によっては絶対に必要というわけでもない。
長くなった。さて、いよいよ実践だ!
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