ナポリタンは郷愁である。それでいて日常のごちそうにもなり得る。それなのに、ナポリタンは日常で食べるスパゲティの中で、最もアップデートされていない。
インターネットリサーチを手掛けるマイボイスコム(東京・千代田)の調査では「自宅で食べる際の好きなパスタの種類・ソース(第4回/2019年)」の人気1位は62.1%でミートソース・ボロネーゼ、2位はトマトソース(51.4%)、3位がナポリタン(48.8%)となっている。
1位、2位のミートソース、トマトソースは、この30年ほどでレシピの進化が著しい。素朴な家庭の味やカジュアルな缶詰パスタソースの味が忘れられそうなほど本格化が進み、バリエーションも増えた。ところが、ナポリタンだけは数十年前から変わらない。喫茶店風のレシピが唯一の正解のように紹介されている。
喫茶店風レシピのポイント
喫茶店風ナポリタンの調理のポイント・手順は次のような感じ。
1)スパゲティは表示時間より1~2分長めにゆでる。
2)水で締め、サラダ油をまぶして冷蔵庫で半日~1日程度保存する。
3)玉ねぎ、ピーマン、ハムは薄切り(ソーセージなら小口か斜め切り)にして、2)と一緒に炒める。
4)ケチャップの他にウスターソース、牛乳、にんにくなどの隠し味を入れる。

調理がワンオペとなりがちな喫茶店のオペレーションに最適化されている。1~2のゆでたパスタを水で締めて、油をかけて保存するのは、事前の仕込みで「ゆで」という工程自体を営業時間から省き、日本人好みのやわらかいもっちり食感に近づけた。3の薄切りにした(火の通りやすい)具も「麺を炒めて温める」スピード調理にはうってつけ。4はその店ならではの甘さや辛さなどの味のオリジナリティーにつながる。
しかし現代の家庭ではどうだろう。2の寝かせるというプロセスはイタリア人以上に「アルデンテ」にこだわる現代日本人にとっておいしいと感じられるのか。かかる手間も、家庭ならゆで上げを即使ったほうが圧倒的にラクだ。
3は薄切りにしてその場でササッと炒めた具がナポリタンの味を底上げするほどの存在感があるのか“問題”が発生する。4の隠し味は「好み」の問題。スパイス感と酸味のウスターソース、マイルドにする牛乳などあれこれあるが、裏ワザ的隠し味は、いまや「ネタ消費」の素材であり、味の本質にはなりづらい。
というわけで、今回家庭のナポリタンをアップデートするにあたり、重視したポイントは3つ。
A:ゆでたてスパゲティのおいしさに、ナポリタン向きの食感をプラス。
B:具材それぞれがおいしく、全体としてもいい味になる。
C:余計なものは入れない。その時々の気分で隠し味を入れる余地をつくる。
他に、炒め油は使わない、麺は焼きつけないとか、細かくはいろいろあるが、これはいわば「基本のナポリタン2021」という位置づけ(のつもり)である。
では手法とその狙いを説明していこう。途中、逐次理由を説明していくつもりだが、それ故長くなることが予想されるので、「手っ取り早くレシピだけ」という方はサクッと最後のレシピゾーンまでスクロールしていただきたい。
Powered by リゾーム?