気合の入ったおいしい「とんかつ」を家で食べている人はとても少ない。

 外食におけるとんかつは、この10年で劇的にアップデートされた。分厚い肉への微細な火入れ加減や、部位ごとの味わいなど、さまざまな楽しみ方が加わった。しかし、世の家庭向けのとんかつのレシピはほぼ変わっていない。

 実は、数年前に肉レシピ本の『大人の肉ドリル』(マガジンハウス)を出版するとき、とんかつの掲載を検討したことがある。でもメニュー候補に含めながら、汎用性のあるレシピに至らず、回避してしまった。あれから数年が経過し、再現性の高い作り方に到達したので、この場を借りて紹介させていただきたい。ついでに最後にかつ丼のレシピも付け加えておきたい。

 今回目指すとんかつは、どんな仕上がりか。外側の衣から順に触れていこう。

目指すは自宅で最高のとんかつを

・衣は香ばしく茶色く色づける

 近年の外食では「白いとんかつ」がはやっている。その流れをつくったのは高田馬場(新宿区)で創業し、南阿佐ヶ谷(杉並区)に移転した名店「成蔵」だろう。しかし、そんなお店の一皿を家庭で再現するのはとても難しい。

 そもそもあのとんかつは豚肉はもちろんパン粉や揚げ油まで、市販品とは別物。厳選された素材をそろえた上で、揚げ油自体を管理し、実際の揚げ工程でもプロでしか実現できない繊細な加熱が必要になる。あの清らかな白いとんかつは店で食べるもの。家で作って食べるとんかつであれば、あの香ばしく茶色く揚げた衣を基本と心得たい。

・衣と肉が一体感あるように揚げる

 「一体」と言っても、「言うは易く、行うは難し」である。実はこの工程がとんかつにおいてもっとも難しい工程。一般的なレシピでは、衣がはがれるリスクについて言及されておらず、そのまま調理するといろいろと失敗が起きやすい。

 その理由は肉にある。肉は急激に高温で加熱すると、肉の筋線維が収縮する。衣との間に隙間ができることが衣はがれを起こすのだ。それを防ぐには肉が収縮しない程度の加熱で衣をきっちり肉と一体化させ、その上で肉が硬くならない程度に加熱して芯まで熱を通すことが必要になる。

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