前編「兄弟が別れて生まれた『アディダス』と『プーマ』の対立はなぜ起きた」ではダスラー兄弟商会の創業から成長、兄弟の対立に至る歴史を紹介した。後編では、兄弟がたもとを分かち、「アディダス」と「プーマ」を立ち上げ、激しい競争となる歴史を追う。

兄弟はたもとを分かち、関係決裂へ

 第2次世界大戦後、兄ルドルフ・ダスラーと弟アドルフ・ダスラーの仲は急速に冷えていった。ルドルフは第2次世界大戦中のナチスとの関わりを疑われ、複数回にわたり逮捕された。今となっては、ルドルフの活動が有罪に相当するものだったかの判断は難しい。ただ、ダスラー兄弟商会が「ナチスのスポーツ振興により業績を向上させ」「戦争のために武器を製造した」ことは事実だ。

 逮捕されたルドルフが釈放される少し前、アドルフもまた検挙された。釈放後、ルドルフは戦時中にダスラー兄弟商会が武器製造をしていたことを知る。そして、あろうことかそれはアドルフがナチスに同調し行ったものだと告発したのだ。前編で紹介したように、靴工場を閉鎖させるために各所へ働きかけ、アドルフが武器製造に転じざるを得なくなった原因をつくったのも、ナチスへの協力を精力的にしていたのもルドルフだった。

 裁判の結果、アドルフは執行猶予となる。ナチスに積極的に関与はしなかったが、当時は党員であり「同調者」として認定されたのだ。こうした経緯もあり、兄弟は修復不能なほど関係が悪化し、ルドルフ兄弟商会は分裂解散することとなった。

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