悪化していく兄弟仲
製造部門と営業部門が対立し、あつれきを生むのはいつの時代にもよくあることだ。そしてダスラー兄弟商会も例外ではなかった。会社の成長に伴い、兄弟の距離は離れていき、ついには絶縁状態になった。
その原因の一つはナチスとの関わり方だった。兄のルドルフはナチスの活動に熱心だったものの、アドルフは興味をあまり持たなかった。
1939年、第2次世界大戦が勃発し、兄弟は徴兵されるものの、弟だけが軍役を免除された。このことにルドルフは激高したという。ナチスの活動に対して積極的にであったにもかかわらず、自分だけが徴兵されたという事実は彼の自尊心を大いに傷つけた(弟の徴兵免除の理由は軍靴を作る靴工場の技術者として国家に必要とされたからだという)。
ルドルフは最前線に駆り出されることこそなかったが、その思いは「いかにしてダスラー兄弟商会を大きく成長させるか」ではなく、「自分のものにならないダスラー兄弟商会を潰してしまえ」へ傾斜していく。事実、ルドルフは工場を閉鎖させるために、様々な働きかけをしている。
そうした兄の活動などもあり、1943年1月にシューズ工場は閉鎖され、工場は戦争のための武器の製造に利用されることになる。
後編では、第2次世界大戦後、決裂した兄弟がいかにして「アディダス」と「プーマ」を設立したのか、そして、その後、両社が引き起こしたスポーツブランド戦争について紹介していく。
(文=宇佐美フィオナ)
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