宗一郎、藤澤の同時退陣
話はそれたが、宗一郎のやるといったらやるという強引にも見えるリーダーシップや歯に衣(きぬ)着せぬ発言は、昭和の時代だから許されるものであり、今の時代では難しいといった声もあるだろう。
そうした指摘は否定できないものの、現在の経営者に欠けている圧倒的なカリスマ性に魅力を感じる人も多い。「会社=宗一郎」というブランド化された企業にもかかわらず、すんなりと次の世代にバトンタッチしたことも、優れた点だろう。

73年(昭和48年)10月、宗一郎は副社長の藤澤と同時に社長を退任する。バトンを引き継いだのは河島喜好(以下、河島)だ。河島は技術者出身だったが、藤澤以上の経営力を持った人物でもあった。この年は、2月にドル円が変動相場制となり、10月の第4次中東戦争を契機に第1次オイルショックが起きるなど波乱の年だった。だが、河島は宗一郎と藤澤というカリスマ不在の中でも会社の手綱をしっかり握り難局を乗り越えていった。
ホンダイズムは失われたのか
ここ数年、ホンダのDNAとも呼べる「ホンダイズム」が失われつつあるとの指摘を目にすることがある。F1撤退やASIMO(アシモ)開発終了なども含め、かつての勢いや企業としての魅力を失いつつあるといったものだ。
だが、米ホンダエアクラフトカンパニーのホンダジェットは小型ジェット機カテゴリーで5年連続で世界第1位の出荷量を達成している。軽自動車では「N-BOX」が大ヒットし、ダイハツ工業やスズキの牙城を脅かしつつある。また、ソニーグループとホンダが出資して2022年中に設立する新会社「ソニー・ホンダモビリティ」がどのような自動車を生み出すか、展開が気になる。同じことを続けるだけではなく、宗一郎を知らない世代が新しいことにチャレンジしている。それこそがホンダイズムなのではないだろうか。
世界的に自動車メーカーへの部品供給が不安定だ。その結果、生産ラインが度々止まっており、ホンダもまた例外ではない。一部車種では納品日が未定となり、納車ができないため販売もアクセルを踏み込めない状態が続いている。
そうした時期だからこそ、最後は宗一郎の名言で締めたいと思う。
「絶体絶命に追い込まれたときに出る力が本当の力なんだ。やろうと思えば人間はたいていのことができると私は思っている」
(文=今井 健)
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