経営者の模範たる人物は誰か。そんな質問を経営者にすると必ずと言っていいほどにあがってくるのは松下幸之助だ。高い経営理念と機転により一代で大企業を興した彼を憧れる人は本当に多いです。前回記事「不況の時こそ松下幸之助を見習え パナソニック創業者の胆力」では松下電器の黎明(れいめい)期について紹介したが、その後戦中戦後と動乱の時代について解説する。

米ロサンゼルス市が開催した2世週日本祭パレードに参加した松下幸之助(右)
米ロサンゼルス市が開催した2世週日本祭パレードに参加した松下幸之助(右)

タブーを気にしない松下幸之助

 経営者にとって一大イベントとも言える本社移転。利便性やコスト面だけでなく、地政学や運気など多くの面で検討して決めるところだろう。だが幸之助はひと味違う。

 幸之助が目を付けたのは、大阪府の門真村(現門真市)。門真村は大阪の中心部から見て北東に位置しているが、この北東の方角は鬼門と呼ばれ、運気が落ちるといった迷信からビジネスを行う上で不適切な土地ではないかとの指摘を内外から受けた。そうした指摘を受け幸之助本人もそのことに悩んだが、大阪から見たら関東も北海道も北東に位置する。そんな迷信を信じていたら松下は大きくならないと宣言し門真村に移転を強行。1933年に工場を開業した。

 幸之助は従業員達に対し「門真で失敗したら鬼門に行ったから失敗したと迷信が信じられてしまう。そんな迷信を無くすために一層の努力をせよ!」と諭した。この門真の地は地価が安価だったこともあり、本社機能と工場機能を集約できることに成功。2021年現在もパナソニック本社として栄えている結果からも、この判断は正しい選択だったと言えるだろう。

 また、工場拡張の前後では海外展開も推し進めていた。従来であれば日本市場の開拓を推し進めるタイミングだが、積極的に海外駐在員を派遣している。海外展開を加速したのは戦後であったが早くアメリカに追いつきたいという考えあっての行動だと言われている。現在のパナソニックは、海外販売比率をより向上させようとしているが、国内だけでなく海外へのマーケットを求める視点はこの頃から始まっていた。 

責めることはできない松下幸之助の失策

 パナソニックは家電メーカーとの印象が強い。だがバッテリーや電柱のライト、雨どいなど多様な産業で活躍している。幅広い分野に進出しているが、実は飛行機を作っていた時代があるというのをご存じだろうか? 第2次世界大戦中、軍からの要請により幸之助は松下飛行機を設立。木製飛行機「明星」の設計・量産をもくろんでいた。

 木製製品については知見があったものの、極度の資源不足と航空機という経験のない産業への参入という二重苦に悩み、設計が大幅に遅延。試作機の設計は失敗に次ぐ失敗だったという。当初予定では量産機を月に数百機生産するという計画を立てたが、やっとのことで量産化が決まったのは終戦より半年前という時期。敗戦は濃厚となり、実際にロールアウトできた明星はたったの数機だけだった。

 こうして失敗ながらも軍への協力をしたことで松下電器は苦境へと立たされる。軍需産業へ参入したことと松下の規模が大きいことから、終戦後GHQ(連合国軍総司令部)から目を付けられることとなった。幸之助自身は、公職追放を一時的に受け資産も凍結された。財閥解体の第2次指定となり松下電器産業と松下電工に分社化することになる。軍需産業への一時的な参入が会社解体の危機につながった面から見ると、軽率な経営判断だったと言えるのではないだろうか。しかし、当時の軍は非常に大きな権力を持っていたこともあり、断ることは難しかったという視点もある。その後、松下電工は2012年にパナソニックとして再吸収されるまでは兄弟会社として歩むこととなる。

 それだけでなく、企業再建においても苦境を歩んだのは皆の知るところだろう。一般顧客向けの商品ラインアップが多かったこともあり、余裕が実感できて売れるような家電製品はとことん売れなかった。得意の大量生産からなる薄利多売モデルでは生産体制は戻っても、ニーズが生まれないのだ。ある時期には、日本一の税金滞納王というレッテルを貼られたこともあった。

 経営の神様とあがめ奉られる現在においては考えられない。そんな踏んだり蹴ったりな称号だ。その後、朝鮮戦争に伴う朝鮮特需により日本全体が好景気に沸くこととなる。そして松下は黒字に回復。幸之助自身に吹き付けられた5年以上の逆風は一気に追い風へと変化するのであった。

パナソニックミュージアム 松下幸之助歴史館の外観
パナソニックミュージアム 松下幸之助歴史館の外観
続きを読む 2/2 松下幸之助の交渉術

この記事はシリーズ「社史に学ぶ!あの企業のなぜ」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。