事業はコンパクトにスピーディーに

 日東商会の事業の屋台骨であった繊維業。その流通は日本軍に管理されてしまう。だが、それでめげる百福青年ではなかった。彼は戦争激化のタイミングでまったく異なる事業への参入を決める。それは、「炭焼き」だ。生産業、軍事産業、発電、そして生活用。太平洋戦争の開戦により炭のニーズがより高まるだろうと先読みし、山を丸ごと購入。後発ながら関西での成功者として一躍注目を浴びることに。兵庫の竈門(かまど)炭治郎といったところだろうか。戦後、財産を没収されるまで彼の収入源となった。

 ただ、彼のビジネスは炭焼きだけで終わらなかった、軍需産業とも結びつき発動機や幻灯機を製造。戦時には、爆撃などで被災した人向けの簡易住宅の開発・販売を開始した。

 経営のセオリーからすれば、本業の成功の後にはシナジーがある事業に進出するところだろう。だが、百福はまったく異分野の事業に突き進んでいく。

 そのすべてに通じる共通項といえば「強烈なニーズ」がある点だろう。人のニーズのあるところにとことん挑戦し、リサーチなどもせず進出する。戦争にともなう不可視な未来予測の中で、コンパクトにかつスピーディーに立ち回る。後発ながらも、しっかりと成功にまで導くその経営手腕もさることながら、今以上に複雑な“VUCA”(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)な時代でも経営者としてのすぐれた立ち回りをしていた。

 百福は思いつきで仕事を始めるタイプの人間ではあったが、彼の生き方に賛同する人も多かった。戦争により職をなくした人や、苦境に立たされる人々を集めてビジネスを通して幸福にする。そんなワクワクすることをやってのける人。それが彼の魅力となり、周囲の人を惹きつけた。

 日東商会の主力であったメリヤスは立ち行かなくなったものの、その後、彼はシリアルアントレプレナーとして活躍し、会社には人が集まり事業は大きくなる。事業が大きくなれば、人が集まってくる。理想的なビジネス像ではあったが、彼のカリスマ性は致命的な大失態をも呼び込むことになった。

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