人選の失敗は事業の致命傷になる

 最後に「ダメな駐在員」の例にも言及しておきましょう。

 まず、通訳経由でしか現地社員と話せない人。ちょっと声を掛けるだけでも全てが通訳経由。そして、社内の自室に引きこもって、ネットで日本の記事ばかり読んでいる。本社の他部署にばかりメールを打っている。こんなタイプは現地の人脈を作れず、付き合うのは日本人コミュニティーの人間ばかりになります。出向期間を指折り数えてやり過ごそうとする、自分は日本の本社から来た人間とふんぞり返って現地の人を下に見る。こんな人を駐在させたら、せっかく大きな投資をして海外進出を決断しても、失敗が目に見えています。

 こういう人は現地の情報を自ら動いて得ようとするのではなく、文字情報から取ろうとします。これが最悪です。情報は文字としてネットや新聞に掲載された時点で2次情報となり、既に鮮度が落ちています。

 自社商品を売るには、売れている商品のどこが人々の潜在的な欲求を満たすものだったかを自ら調べた「事実」から見極めて「真実」を探り出す必要があります。真実を知らなければ、本当に情報を掴んだことにはなりません。特に日本向けの記事は、日本で興味のあることだけを集めているので、現地の本当の状況と異なる点がたくさんあるのです。

いつまでも日本のネットや新聞ばかり見ている駐在員は鮮度の高い情報が集められない
いつまでも日本のネットや新聞ばかり見ている駐在員は鮮度の高い情報が集められない

 もし、選んだ人材を実際に派遣してみて、社員と十分なコミュニケーションを取ろうとしない「不適格な人材」だったら、すぐに帰国させるべきです。この決断はとにかく早いほうがいい。せっかく選んだのに……と躊躇してはいけません。そのほうが出向させた人材のためにもなり、現地社員にも安心感を与えます。そして何よりも、海外事業の成功のためには避けられない決断です。

 実は、さらにもう一段「ダメな駐在員」がいます。自らが全体戦略を実行するために現地に駐在しているにもかかわらず、「市場規模が小さい」「市場性が低い」「パートナーが悪い」だのと、自分の責務は現地で具体的に政策を考えて実行することであるのを棚に上げて「評論家」気取りで文句ばかりを言うタイプです。このようなタイプの駐在員は、その場ででも日本に引き揚げさせるべきです。

 日本社会では上司や組織の要請を素早く理解してすきのない報告をする優等生タイプが高く評価されがちです。しかし、海外進出に際しては少々やんちゃな面がある人間のほうが、業績を著しく伸ばすものです。海外事業は「考えてから行動するタイプ」よりも「行動しながら考えるタイプ」が向いています。

(構成:田北みずほ、編集:日経BP総研 中堅・中小企業ラボ

本記事の著者、山下充洋氏が講師を務めます
2019年1月から「中堅企業 成長戦略勉強会」を開催

 日経BP総研 中堅・中小企業ラボでは、2020年以降も成長を目指したい中堅企業の皆様を対象に、2019年1月から「中堅企業 成長戦略勉強会」を始めます。

中堅企業の経営幹部の皆様に少人数でお集まりいただき、講師と参加者が共に議論できる学びの場をご用意いたします。勉強会のテーマは「アジア進出」「デジタル化&生産性向上」「新規事業創出」の3つです。

「アジア進出」の講師は、本記事の著者である山下充洋氏が務めます。マンダム、森永製菓で約30年にわたる海外担当の経験を生かし、わかりやすく具体的な海外進出のコツをお話しいただきます。疑問点については質問をしながら細かい部分まで理解して海外進出の本質をつかんでいただける双方向の勉強会です。

中堅企業 成長戦略勉強会の詳細、お申し込みは下記のURLをご参照ください。
https://project.nikkeibp.co.jp/event/chuken/

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