その上、相手との交渉には度胸も必要です。海外という未経験の市場で成功するには、論理的な思考と合わせ、こうした胆力も必要になります。

 ただし、「そんな人材なんて、うちにはいない」という会社もあるでしょう。その場合は、海外人材を見分ける2つ目の基準があります。「社内に広いネットワークを持ち、影響力のある人」を選ぶことです。

 例えば、担当案件が滞っていると、部署を飛び越えて社内のあちこちを飛び回り、「この案件の返事がないけど、どこまで進んでいるの?」「そっちの部署としての考えを聞かせて」などと意見を集めて部署間を調整し、停滞案件をスムーズに動かしてしまうような社員はいませんか。こういう人こそ、様々な部署の利害を調整できる、幅広く影響力を発揮できる人材です。

 さらに、こうした調整力のある人材もおらず、社内に適材がいない場合はどうするか。そのときは、まだ経験が浅くても、若くてやる気のある人材を思い切って抜擢してください。最初のうちは海外展開が思うように進まないこともありますが、いずれ花開く優秀な若手社員に経験を積ませるためと、経営者の方は腹をくくってください。0から1を生み出せる人を社内で育てるチャンスにもなります。

「エース」投入で経営者の本気を示せ

 中小企業の場合、海外進出の際は自社の事業を全て理解しているトップが自ら現地に乗り込み、陣頭指揮を執ることが理想です。しかし、実際には国内の仕事もあり、トップが現地に行くことはなかなかできません。ですから、次の候補としては社長の名代となる「我が社のエース」と言える、社長とほぼ同じ判断ができる、あるいは社長が判断を一任できる人材を投入して任せることです。

海外には社長とほぼ同じ判断ができるエース社員を送り出したい(写真=PIXTA、写真はイメージ)
海外には社長とほぼ同じ判断ができるエース社員を送り出したい(写真=PIXTA、写真はイメージ)

 しかし、いざ海外進出を始めようとすると、「エース人材がいなくなったら国内の事業が滞ってしまう……」などと既存事業の部門が不安を口にします。その結果、社内は「総論賛成、各論反対」となりがちです。

 それは、海外進出を始めるときに、国内事業があくまでも本流であり、その余力で海外の売り上げを伸ばせればよいという発想に立つからです。はっきり指摘しましょう。その発想では海外事業は立ち上がりません。国内の余力で海外市場を開拓しようというのでは、いつまでたっても海外事業に優秀な人材を投じることができません。国内の実績が下振れし始めるとすぐに、「国内シェアを維持できるか不安だから海外事業の予算を減らそう」という安易な判断に陥り、海外事業が立ち上がる前にしぼんでしまう。こんな失敗が中堅・中小企業ではよく見受けられます。

 国内事業を100として、そこに余力で海外事業の5をアドオンするという発想ではいけません。国内事業と海外事業を合わせた全体を100として、それを「国内98、海外2」で支え合っていると考えてください。

 国内市場の「98」は5年後に100にしか成長しないかもしれませんが、海外の「2」は5年後に「20」に伸びる可能性があり、全社の売り上げを100から120に伸ばすためと考えれば、どういう人材を選び、経営資源をどう投じるべきかがはっきり見えてきます。

 ここが経営者の本気度の見せどころです。「全社の売り上げを100から120にするために、この優秀な人材を海外に出すことが必要なんだ」とトップが熱意を持って語れば、既存事業を受け持つ社内の納得も得られるはずです。「社長はそこまで腹を決めているのか」と社員を巻き込むことができれば勝負ありです。社内の異論はなくなり、海外担当に選ばれた人材は社長のバックアップがあるという安心感の下、「本気で取り組まなければならない」という責任感が出て物事を前向きに捉えられるようになります。こうしたポジティブな雰囲気を社内に醸成すれば、新規事業も既存事業もお互いに協力し合いはじめます。

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