石坂:星野代表は、お父さんを社長から解任していますよね。その決断を鈍らせるような、父への個人的な思い入れや愛情というものは、なかったのですか。
星野:ほとんどなかったですね。少なくとも株主総会で社長だった父を解任し、自分が経営権を握るまでは皆無でした。とにかく公私混同した父の経営が許せない。これでは従業員がかわいそうだ。そんな義憤に燃えていましたから。
石坂:そういう親子関係は、改善しようがないのでしょうか。
星野:渦中にあっては最悪で、にっちもさっちもいきません。
けれど、いったん勝負がつけば、徐々に関係は修復されていきました。最後はむしろ親子関係は良くなりましたよ。父は3年前に亡くなりましたが、晩年は盛んにエールを送ってくれました。「佳路、もっと攻めろ!」「おまえも、バリバリやれる時間は残り少ないんだぞ!」という具合にね。
何というか、父は最後、無責任になっちゃったのです(笑)。
石坂:重責から解放されて。
経営の対立を血が癒す
星野:何があっても、親子はどこまでも親子なんです。どれほど激しく争っても、また家族に戻れる。それは、私が自分自身の経験から学んだことで、ファミリービジネスの真理なのだと思います。経営の路線対立でどんなに悪化した人間関係も、血のつながりによって時と共に修復されていく。
ところで、石坂社長のお父さんは今、どう過ごされていますか。
石坂:社業を手伝ってもらっています。生涯現役の時代ですからね。例えば、本社の敷地内に電気機関車を走らせるプロジェクトをお願いしたりしています。私が社長になってから、地元の里山保全に取り組んできましたが、その一角を一昨年、環境教育向けのテーマパークにしたのです。そこの新たな目玉です。
父は典型的な創業者タイプで、既存のものの維持、管理には興味が持てません。だから、クリエイティビティーが発揮できる仕事を頼むように心掛けています。
星野:なるほど。「引退した親世代対策」も、しっかり手当てされている。これもファミリービジネスの重要なテーマですよね。

(この記事は日経BP社『日経トップリーダー』2016年4月号を再編集しました。構成:小野田鶴、編集:日経トップリーダー)

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【ワークライフバランス編】バツイチのワーキングマザーが、心の安らぎを取り戻すまで
【コミュニケーション編】社長業は、社員とのあいさつ一つから真剣勝負
エピローグ ―― 笑われてもなお、夢を描き続ける
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