星野:それは、嬉しかったのでしょう。私も聞いていて感動しましたが、お父さんはもっと嬉しくて、照れくさかったのだと思います。娘が「人生を賭けてやっている」と、言い切ったことが。
石坂:この一件を機に、父はパタリと、私の経営に口を出さなくなりました。
星野:その瞬間、お父さんの中で覚悟が固まったのでしょう。いわば「継がせる覚悟」ですね。
石坂:継がせる覚悟、ですか。
星野:例えば、前回の通り、私は父を解任して社長に就任していますが、同族企業では決して変わった話ではなく、後継者と先代は仲が悪いのが普通です。事業承継に親子の衝突は不可避です。父親思いの優しい石坂社長ですら、例外ではなかったわけで、それ以上のハードランディングを選ばざるを得ない事情があるケースが多く存在します。
ただ、この問題で最近、私が認識を新たにしている問題意識があって、それがバトンを渡す側の覚悟なのです。
石坂:それは確かに重要ですね。
引退したら、アラスカ逃亡?
星野:どんな企業でも、いったん後継者にバトンタッチした人が「バトンを返せ」と騒ぐのは良くない。バトンを渡す以上、「おまえの代で会社を潰してもいい。だから本気でやるんだぞ」と、気迫を込めて全権を渡すべきだと思います。
石坂社長のケースでは、後継者の働きかけで、逆に父の覚悟が固まりました。特筆すべきことです。
一方、先代の腰が定まらないまま「潰さないようにうまくやれ」「潰しそうになったら、バトンを返せ」といった、条件付きの事業承継をすると、後継者は思い切った経営ができません。それで停滞する同族企業は多い気がします。
石坂:同感です。自分も将来、それくらいの勢いでバトンを渡さなくてはならないと、自戒を込めて思います。だって、自分とまったく同じ人間なんていないのですから。いくら親兄弟でも、「自分がやるのと同じにやってくれ」と頼まれたら、困ってしまいます。
星野:下手に現場が見えていると許せなくなるのでしょうね。私は自分が引退したらしばらく、現場が見たくなっても絶対に見られないところに逃亡しようかと思うのです。アラスカだとか……。
石坂:それはいい(笑)。

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