星野:なるほど、現場ですか。借金の額など、さまざまな要素を総合的に見れば、先行きは不透明。しかし、現場に目を向ければ、社員たちが少しずつ、自信を回復し始めている。現場に、福島さんが経営者として来てくれて良かった、という人が増えていた。それが大きなモチベーションになったのではないでしょうか。

現場のスタッフと福島社長(前列中央)。2006年2月撮影。キャディー全員の顔写真を個別に撮り、裏に名前を書いて覚えたという

福島:言われてみれば、確かにそうです。父は本業以外に手を広げていて、あまり現場に足を運ばなかった。一方、私はやることが思いつかなくて、キャディーさんの集まりに顔を出すなど、毎日のように現場に行きました。すると、驚くほど喜ばれるのです。

星野:そこは共感します。経営の先行きは見えなくても、今、目の前にいる社員に「この人が経営者になってくれて良かった」と思ってもらえれば、俄然、やる気になる。ましてワンマンな先代の後だと、現場の声に耳を傾け、その意見に基づいた施策を打つだけで、結果はさておき、社員は「良かった」と言ってくれる。

 私も継いで間もない頃は連日、パートの方たちとカラオケに行ったものです。それでみんなが喜ぶのならばと。できれば定着率も上がってくれるといいけれど、などと思いながら。

 何より、先代の下では怒られてばかりだった社員が、人として尊重され、自分のやるべき仕事が分かり、仕事を楽しめるようになる。会社の中に自分が存在する価値を感じ始める。そんな変化が経営者にとって大きなモチベーションになる。福島さんが置かれた過酷な状況では、それ以外にないような気さえします。

福島:ええ。ファミレスで朝まで社員と語り合い、熱くなったり。

星野:それで士気が高まると、こちらも「よし、やるぞ!」と、毎日が充実してくる。経営状態は改善されていないのに(笑)。

福島:「何とかなるさ!」と。

星野:そんな福島さんの楽観性は、小学生から社会人まで、ずっとラグビーをしていたことと、関係していませんか。

民事再生はノーサイド

福島:大いに関係していると思います。ラグビーは15人対15人の戦いですが、現実には試合に出ていない選手の士気が大きく影響します。そんな目に見えない部分を大事にする意識が育ちました。

星野:結果がどうなるかが分からなくても、やるべきことを、みんなでしっかりやり切るということですよね。私も体育会系出身なので、その感覚は分かります。

 そう考えると民事再生は、ノーサイドのホイッスルのようなものだったのかもしれません。いったんは試合終了で負けが決まっても、再び立ち上がり、走り始める。そんな「戦う姿勢の維持」と、それを支える「楽観的なメンタリティー」が、再生を成功に導いた重要なポイントだと思います。

(構成/小野田鶴)

(この記事は2018年11月号の「日経トップリーダー」に掲載した記事を再構成したものです)