星野:いざ社長に就任した後、お父さんはどうでしたか。

石坂:もう毎日、怒鳴りっぱなしですよ。私の提案を何であれ却下するんです。「おまえなんか、もう出て行け!」とかね。星野代表は、言われませんでしたか?

星野:ええ、言われました。それで本当に出て行ったんです。

石坂:え?

星野:私は父の会社に入社した半年後、半ば追い出されるような格好で退社しました。さらに2年後に、取締役会で社長だった父を解任し、社長に就任したのです。

跡取り息子の試行錯誤

石坂:最初から後を継ぐつもりだったのですか。

星野:温泉旅館の長男に生まれちゃいましたからね。「いずれは継ぐのだろう」と思っていましたが、先ほど申し上げた通り、「格好いい仕事」とは思えなかった。

石坂:乗り気ではなかった?

星野:ええ。大学生まで、私のアイデンティティーは「温泉旅館の後継ぎ」ではなく、「スポーツ選手」でした。慶応義塾大学アイスホッケー部で主将をしていて、それが生活のすべてでした。

 だから、部活を引退して「スポーツ選手」でなくなった途端、途方に暮れてしまった。自分が何者だか分からない、アイデンティティー・ロスに陥ったのです。

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