いつかは「株主に上がる」
星野 上場すると、創業家の役割や立場は変わるものですか。
松本 変わらなくてはなりません。不特定多数を株主に迎える以上は、コーポレートガバナンス(企業統治)が不可欠です。上場していなくてもガバナンスが効いている会社もあるでしょうが、上場したら、その事実を明確に外に示す必要があります。
だから私は、創業者のご子息に取締役から退いてもらったのです。「今まで素晴らしい経営をしてくださって、ありがとうございます。お疲れさまでした。ついては株主に上がってください」と。
星野 「株主に上がる」ですか。いい表現ですね。こんな言葉遣いにも、ファミリービジネス発展のノウハウがある気がします。
松本 ガバナンスを効かせるとは、経営と取締役会、株主の3つを峻別することです。
会社の構造としては、株主が一番上にいます。そして取締役会は、株主の代表選手団です。上場すると株主は時には何万人にもなり、しかも朝に株を買ったと思えば、昼には売っている人もいる。そういう株主にあれこれ言われては、いい経営はできません。だから取締役を選び、株主に代わって経営を監視してもらう。
このように経営と取締役会、株主には、それぞれの役割があり、誰かが兼任したら、ガバナンスが効かなくなるのが自然な流れです。
非上場の小さなファミリー企業なら、3つの役割をすべて一族が担っていていいと思います。けれど上場したら、一族のほかにも株主がいるわけです。そのままの体制では、示しがつきません。
星野 ファミリー企業が上場を選ぶことには、メリットもあれば、デメリットもあると感じます。
松本 いや、それほどデメリットはないんじゃないですかね。
星野 それはつまり、上場しなくとも企業にはガバナンスが必要だ。そして、ガバナンスがしっかりしていれば、上場を恐れることはない。だからデメリットなんてないはずだ、ということですか。
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