怖いのは、親父でなく株

星野:だからこそ、親の健康長寿が大問題なのです。30代、40代の後継者が活躍できない現状を放置しては、ファミリービジネスの最大の強みを潰してしまいます。

入山:確かに、中小企業の後継者から「親父が強すぎる」という嘆きをよく聞きます。要するに、お父さんのことが怖いのですね。

星野:それは、「人」としての父が怖いのではありません。父の持つ「株」が怖いのです。株を譲ってもらえれば、後継者はすぐ、父より強い立場に立てます。

 問題は、親が株をなかなか譲らないことです。息子や娘は大抵、親に「いつか株を譲る」と言われて、実家に帰り、家業を継ぐ決意をします。ところが、いざ経営に関わると、親との間に対立が生まれ、株を譲るという約束をうやむやにされてしまう。それで両者の関係が、ますますこじれる。

入山:それは、非常に重要なポイントですね。

星野:この問題を解決するヒントとして、私は最近、興味深い情報を得ました。

 日本の中小企業経営者は大抵、会社の借金の連帯保証人になっています。いわゆる「個人保証」です。あれは本当におかしな制度で、私は何年もかけてようやく外したのですが、最近では、ますます批判が強まっているようです。

 しかし、銀行の立場に立って考えれば、返済を担保してくれる何かが欲しいわけです。

 この点、ヨーロッパでは、ファミリービジネスにお金を貸すとき、個人保証を求める代わりに、事業承継プランを提出させて、その実行状況を監視することがあるというのです。

 これは、日本も導入を検討するに値する、いい仕組みだと思います。まず、後継者が約束を反故にされて、株を譲ってもらえない事態が防げます。その結果、早期の世代交代が実現すれば、会社が発展する可能性が高まります。そうなれば、銀行は確実に借金を返済してもらえますし、新しい優良な貸出先を育てることにもなる。

入山:すごくいいですね。

星野:日本のファミリービジネスは今、岐路に立っています。良い方向に変えていくには、銀行も含めて、同族企業を取り囲む環境から変えていく意思が必要です。

(構成/小野田鶴)

(この記事は2016年9月号の「日経トップリーダー」に掲載した記事を再構成したものです。肩書などは掲載当時のものです)

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