親子の確執が変革を生む
入山:しかし、星野リゾートのような同族企業のほうが、「知の探索」をしやすいはずなのですよ。
まず、オーナー経営だから、良くも悪くも、経営者の会社に対するグリップが効く。そして経営者は、自分の子孫、ときには社員の子孫のことまで考えて、数十年先を見据えた投資をする。一見、ムダに見えるようなそれらの投資には、うまくいかないものもあるでしょうが、うまくいくものもあって、いつかイノベーションとして花開く。それは「3年2期」のサラリーマン経営者には到底、できないことなのです。

1960年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院に進学し、修士号取得。88年星野温泉旅館(現星野リゾート)に入社。いったん退社した後、91年に復帰して社長に就任
星野:うーん……。今の入山先生の話を聞いて、私が思うところを率直に申し上げれば、「経営学者の先生たちが考えるほど、同族企業は素敵なものじゃない」。ひどい実態も見ていますから。
入山:そうですか(笑)。
星野:ええ、経営の基本を押さえていない会社が多すぎます。しかし、同族企業に独自の強みがあることには同意します。
私が強調したいポイントは2点あって、1つは、すでに指摘した経営者の任期の長さです。
もう1つは、世代交代に伴う、大きな方向転換です。
サラリーマン経営者の場合、前任者は大抵、仲のいい人を、後任に指名します。年齢もさほど離れていませんから、価値観も合う。だから、チームワークがとれるという強みもありますが、大きな変化は起こしにくい。
一方、ファミリービジネスの場合、後継ぎの息子や娘は、先代である親のことが大抵、嫌いなものです。世代も違えば、価値観も違います。そんな親への反発から経営者人生が始まり、親のやってきたことのすべてがダメに見えるから、すべてを変えたくなる。それが大きな変化を生み、ときにイノベーションにつながる。経営学の考え方とは少し違うかもしれませんが、私は、そう考えます。
入山:言われてみれば、そんな力学も働いていそうです。
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