星野:日本経済の停滞には、そんな事情があると見るのですね。

1998年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。2008年米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を経て、13年から早稲田大学ビジネススクール准教授
入山:そして、このような悪弊と無縁でいられるのが、ファミリービジネスです。
経営学の世界で今、イノベーションを起こすのに最も必要だと言われるのが「知の探索」です。
イノベーションは、「既存の知と、別の既存の知の新しい組み合わせ」から生まれるとされます。経済学の泰斗、ジョセフ・シュンペーターが提示した概念です。人間というのは、ゼロからは何も生み出せないから、常に既存の知の組み合わせから、新しい価値を生み出すというわけです。
しかし、人間には目の前のものばかりを見てしまう、近視眼的な傾向があるので、イノベーションになるような新しい組み合わせは、なかなか思いつきません。
そこで「知の探索」です。未知の場所に出かけていって、新しい知を手に入れる。物理的に探すだけでなく、読書といった方法も有効です。さらに、こうして手に入れた新しい知を、そのほかの知とさまざまに組み合わせて、試行錯誤する。そのような一連の活動を「知の探索」と呼びます。
ただ、「知の探索」は成功するまでに時間がかかるので、それだけでは安定した収益を生めません。だから企業は、慣れ親しんでいて強みのある特定分野の知を継続的に深掘りします。このような活動を「知の深化」と呼びます。
「両利きの経営」とは
「知の探索」と「知の深化」の2つを、バランスよく推し進めることを、「両利き(Ambidexterity)の経営」と呼びます。経営学の世界で現在、イノベーション理論の基礎とされる概念です。
ただ、どんな企業も、放っておくと、収益に直結する「知の深化」に偏りがちです。まして限られた時間で、結果を出すことが求められるサラリーマン経営者ならば、なおさらです。
しかし、そうやって「知の探索」を怠っていると、イノベーションは起きません。だから、「知の深化」を究めて、目の前の儲けのタネを食い潰したとき、新しい儲けの源泉がないことに気づき、途方に暮れるのです。
星野:変えることの難しさ、ですよね。私も痛感しています。
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