星野:引き継ぐ側にもメリットがあります。ベンチャーを立ち上げて、サバイバルさせるには、膨大なエネルギーが必要です。イノベーションを起こすところまで達するのは、意外に難しい。ところがファミリービジネスを継ぐ場合、すでに会社はサバイバルしています。確固たる土台の上にイノベーションを起こせ、という話ですから、成功の可能性は高まる。

入山:確かに日本のベンチャーの課題は、iPhoneアプリの開発をはじめ、軽いビジネスを手掛ける小粒な企業が多いことです。そういう企業も必要ですが、重厚な分野で伸びる企業が足りません。となると、すでに技術力や顧客基盤などのリソースを持つファミリービジネスがイノベーションを起こすのは、魅力的なシナリオです。

星野:そこで問題なのが、同族企業のステータスの低さです。跡継ぎ息子となると「親の七光り」なんて揶揄されることが多いですから。

入山:星野さんもそうだった?

星野:そうです。何となく「楽をしているんじゃないか」という目で見られるのです。創業家の息子だから経営者になれる、同族企業だから感覚的な経営でもやっていける。そんなイメージがある。しかも現実にそういう一面があることを、否定することもできません。

入山:そこは欧米と違いますね。同族企業の業績がいいことは、欧米では常識で、その強みは長期視点にあることも広く知られています。米国では近年、同族経営を脱したデュポンやGE、IBMといった大企業が逆に、同族企業の強みを取り込もうとしているくらいです。100年くらいの長期スパンで将来を予測し、そこから逆算して経営計画を立てるといったことに真剣に取り組んでいます。

星野:同族企業でない会社が、あえて同族っぽくしているのですか。

同族企業の良さを仕組みに変えている

入山:その通り。同族企業の良さを「仕組み」に変えているのです。

 創業家出身の優れた経営者は、おしなべてビジョナリーですが、その強みが属人的で、仕組みになっていない。一方、星野さんが指摘されたような弱みも抱えています。この点に着目した非同族企業が、同族企業の強みを制度的に取り込み、超越しようとしている。

 これが今まさに、グローバルに広がりつつある、新しい経営のトレンドです。

星野:彼我の差は大きい。さらなる勉強の必要を痛感します。

(構成/小野田鶴)

(この記事は2016年8月号の「日経トップリーダー」に掲載した記事を再構成したものです。肩書などは掲載当時のものです)

星野佳路社長のネタ本30冊を大公開。ビジネスリーダー必読の経営書。そのエッセンスと実践事例がこの1冊でわかる!『星野リゾートの教科書』大好評発売中!

―同業他社と差別化し、混戦から抜け出すために必要な教科書は?
―コスト競争力を高め、同時に顧客満足度も引き上げるために役立つ教科書は?
―部下のやる気を引き出して、現場のミスを減らすために役立つ教科書は?

 軽井沢の老舗温泉旅館から、日本各地でリゾート施設を運営する企業へと飛躍した星野リゾート。その成長の背景には、星野佳路社長が実践した「教書通りの経営」がある。本書は、星野社長が戦略やマーケティング、リーダーシップの参考にしたネタ本30冊と、それらの本から学んだ理論の実践事例を一挙に紹介する。

「課題に直面するたびに、私は教科書を探し、読み、解決する方法を考えてきた。それは今も変わらない」
――第1部「星野佳路社長が語る教科書の生かし方」より

<目次>
・星野佳路社長が語る教科書の生かし方
・教科書通りの戦略
・教科書通りのマーケティング
・教科書通りのリーダーシップ
・教科書通りに人を鍛える