星野佳路(ほしの・よしはる)
1960年長野県生まれ。慶應義塾大学卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院に進学し、修士号取得。88年星野温泉旅館(現星野リゾート)に入社。いったん退社した後、91年に復帰して社長に就任

星野:きちんと納税したほうが、会社はもちろん、オーナー一族にも「良い未来」が待っているはずなのです。基本的な勉強が足りないと、そんな当たり前のことさえ見えなくなってしまいます。

入山:切実ですね。

星野:私は創業者から数えて4代目ですが、昔は、会社の敷地に一族が住んでいました。私が育った家も敷地内にありました。契約も何もなく、昔から住んでいるから皆、住み続けていたのです。

 私が会社を継いだとき、「こんな公私混同を許したままでは、会社は発展しない」と思って、まず自分自身が住宅金融公庫でローンを組んで家を買い、敷地の外に出て行きました。それから徐々に、ほかの方々にも家賃や水道光熱費の負担をお願いするようになり、最後は「再開発をしたいので、会社の敷地から出ていただけませんか」と頼みました。

 そこまでに、実に12年かかりました。この12年の間に業績を上げながら財務的な体力を蓄え、金融機関と良好な関係を築いて、会社の「正常化」に備えたのです。

入山:生々しいですね。

後継者という仕事の魅力

星野:このようなノウハウは、さすがに教科書には載っていません。経営において「これは使える」という決定的な教科書を、私が見つけられなかった唯一の分野、それがファミリービジネスです。

入山:その意味では、星野さん自身の体験こそが財産です。先ほどのように率直に語っていただければ、日本のファミリービジネス発展に大いに寄与するはずです。

星野:私はベンチャー志向の若い世代がもっと、ファミリービジネスの後を継ぐことに前向きになれるといいと思うのです。

 日本企業の99%以上が中小企業で、その大半が同族経営です。少なく見積もっても、日本が産み出す付加価値の過半は、ファミリービジネスによるものでしょう。

 しかも、先ほど説明した通り、日本のファミリービジネスのほとんどが、非常にプリミティブ(原始的)な経営をしています。少し勉強するだけで、業績を大きく伸ばせます。すでに洗練された経営をしている大企業に頑張ってもらうより、はるかに日本経済の発展に寄与できるはずです。

入山:僭越ながら大賛成です。