入山:佐久の書店がそんな品ぞろえをしていたのは、軽井沢に保養にくるエグゼクティブ層を狙ってのことでしょうか。

星野:いやいや、全国どこでも主要都市の大型書店には必ず、佐久の書店と同様に、経営学で定評のある良書が並ぶ一角があります。

家業の弱点は読書不足

入山章栄(いりやま・あきえ)氏
1998年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。2008年米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授を経て、13年から早稲田大学ビジネススクール准教授

入山:興味深い。偶然ですが、私はつい先日、軽井沢の「星野温泉トンボの湯」に立ち寄ったのですが、すっかり感服しました。スタッフの皆さんが、自発的にいきいきと働いている。星野さんという経営者は、ものすごい現場をつくられているな、と。その背後に、経営学の本があるのですね。

星野:スタッフの自発性の出所は、ケン・ブランチャードの『1分間エンパワーメント』(ダイヤモンド社/共著)です。現場に権限を委譲し、モチベーションを上げるため、私がしたことといえば、この本に書いてあることを一言一句、そのまま実践しただけです。

 この本ももちろん、大型書店にあったのです。つまり、「社員に主体性が育たない」という、多くの経営者が抱える悩みの答えも、やはり書店で見つかるのです。

住宅ローンを組んだ理由

入山:つまり、星野さんはこんな仮説を持っているのですね。

 ファミリービジネスの後継者は、特別なことをやろうとしなくていい。経営学の教科書が説く当たり前のことを、当たり前にやるだけでいい。そもそも普通のことができていない会社が多いのだから、教科書通りにやるだけで、大きく伸びる余地がある。

星野:その通りです。

 例えば、同族企業は、納税を嫌う傾向が強い。だから利益が多く出そうになると、期末に費用として使ってしまう。それが社業に関わる出費ならまだいいのですが、まったく関係ないことに使ってしまう。専らプライベートで使う自動車であるとか。だから、温泉旅館でお客さんを運ぶバスが老朽化しているのに、オーナー社長は輸入高級車に乗っているなんていう、本末転倒な事態に陥る。

 このようなケースの根本的な問題は、経営者の一族が、貸借対照表や損益計算書をよく理解していないことです。税金を払ってでも会社に利益を残さなければ、金融機関から借り入れができないし、設備投資ができない。つまり会社の成長のために、お金を使えない。どう考えても、それで経営がうまくいくわけがないでしょう。