愚かなオーナーを残すな

星野:日本のファミリービジネスでも今後、同族経営から同族所有への移行は、有力な選択肢になると思います。少子化が進むなか、自分の子供が経営者の器でないと判断したら、ほかから経営者を選ぶしかありません。

 ただ、それで「ぼんくら息子問題」が解消するかというと、話はそう簡単ではないのです。子供は依然、大株主として会社と関わり続けます。そして、企業を永続させるには、大株主にも高い見識が求められます。

入山:それは興味深い視点ですね。同族所有は、日本でも広がりつつあります。その影響で最近、「創業家の判断」が、企業経営に大きな影響を与えるケースが相次ぎました。例えば、セブン&アイ・ホールディングスの会長兼CEOを務めた鈴木敏文氏や、LIXILグループ前社長兼CEOの藤森義明氏の突然の退任には、創業家のオーナーの意向が働いたようです。

 個別の事例の論評はさておき、いずれにせよ、オーナーがどう考え、どう決断を下したのかは、重要なポイントです。だが、その内実はなかなかうかがえません。それどころか、オーナーの判断の是非について論じる人も少ない。

 それも仕方のないことで、ここまでくると「会社は誰のものか」という世界です。会社の所有者の判断なのだから、どんな判断でも受け入れるべきなのか。あるいは、その判断の是非を問うていいのか。

星野:問うべきではないでしょうか。どこに向かうため、誰に経営を委ねるべきかを示すのが、オーナーの役割で、その判断の是非は企業の永続のカギを握ります。

 つまり、経営者としての「ぼんくら息子問題」を、プロ経営者の起用などで回避しても、その先のどこかで「ぼんくらオーナー問題」が勃発する危険は残るのです。

 だから、もしも自分の息子が経営者の器でなかったとしても、最低限、大株主に求められるインテリジェンス(知性)は持たせなくてはならない。事業承継には、そんな責任も伴うのです。

(構成/小野田鶴)

(この記事は2016年7月号の「日経トップリーダー」に掲載した記事を再構成したものです。肩書などは掲載当時のものです)

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