なぜ会社を売れないのか
星野:一方で、欧米の同族企業は、後継問題にどう対応しているのでしょうか。
入山:一口に同族企業と言っても2種類あって、「同族所有」と「同族経営」を分けて考えたほうがいいと思います。同族所有では、創業家は株を持つものの、経営に直接は関わりません。他方、同族経営は、創業家から経営トップを出すパターンです。そして私の感覚では、欧米と比べると、日本は「同族経営」が多いようです。
星野:そこに「ぼんくら息子問題」が起きやすい素地があるわけです。
特に、米国はドライな気がします。ファミリービジネスがある程度の規模になると、会社を売ってしまう人が多いですよね。
入山:確かに。だから、後継者に頭を悩ませることも少ない。
星野:ただ、日本人はそこまでドライになれない気がします。私も、創業者が自分でつくった会社を売るのは、何となく理解できるのです。けれど、私のように4代前から続いてきた会社を引き継いだ人間が、それを売ってしまうことにはとても抵抗を覚えます。
何より、私一人が売却益を得ることに罪悪感がある。4代遡って、皆さんにお金を配れるのならまだしも、今さら立派なお墓をつくってもしょうがないですから。
そもそも自分は引き継いだだけの人間なのだから、次に引き継ぐ義務があると思うのです。
入山:素晴らしい。学者の私には到底、理解できない感覚ですが、創業家出身者なら、大半の人が理解できる感覚で、それこそがファミリービジネスの強さなのでしょう。
米国は国としての歴史も浅く、むしろ特殊なのだと思います。ヨーロッパのファミリービジネスの感覚は、星野さんに近いでしょう。
ヨーロッパには、創業家が大株主の地位を維持したまま大きくなる企業が多く、その場合、経営トップは必ずしも創業家出身者ではありません。日本ではまだ少ない同族所有のパターンですね。
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