<span class="fontBold">入山章栄(いりやま・あきえ)氏</span><br /> 1998年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。2008年米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号取得。同年米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授に就任。13年から早稲田大学ビジネススクール准教授。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)など
入山章栄(いりやま・あきえ)氏
1998年慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。2008年米ピッツバーグ大学経営大学院より博士号取得。同年米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授に就任。13年から早稲田大学ビジネススクール准教授。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP社)など

入山:彼らは、日本の上場企業1367社について、1962年から2000年までの業績データを取得し、統計解析しました。

 対象企業のうち、創業家出身者が経営者か主要株主である「同族企業」が約3割でした。

 この「同族企業が約3割」という比率は、海外の上場企業や大企業などのデータと概ね同水準です。

星野:同族企業が多いのは日本だけではないのですね。

入山:沈准教授らは、これら日本の同族企業を4タイプに分けて、非同族企業と比較しました。

  • 第1に、創業者が経営する企業。
  • 第2に、創業者と血のつながりのある後継者が経営する企業。
  • 第3に、創業者と血のつながりのない親族、いわゆる婿養子が経営する企業。
  • 第4に、雇われたサラリーマン経営者が経営する同族企業。

 最も成績がいいのは、創業者が率いる企業で、例えば、ROA(総資産利益率)の平均値は7.12%と、非同族企業の4.24%を圧倒しています。

 ただ、ほかの3タイプの同族企業も健闘していて、ROAの平均値は4.64%と、非同族企業を上回っています。

 さらに同族企業の後継者同士を比べると、一番いい数字を出したのが婿養子、その次が、創業者と血縁関係にある後継者、そしてサラリーマン経営者という順番です。

同族企業の強みと弱み

星野:だから、婿養子が最強。

入山:そうです。この論文はさらに、婿養子制度が日本に特有の仕組みであることに言及し、日本のファミリービジネスの繁栄を支えてきたことを示唆しています。あくまで上場企業のデータであることに注意が必要ですが。

星野:ただ、そこで我々が研究すべきは、「それはなぜか」ですよね。

入山:その通り。ただ理論的には、とても納得がいく結果なのです。

 というのも、同族企業の業績がいい理由を、経営学では、主に2つの理論から説明します。

 1つは「エージェンシー理論」。この理論では、経営者は、企業の所有者である株主から目的達成を依頼された代理人(エージェント)であると捉えます。ただ、株主と経営者が別人だと、往々にして利害が相反します。例えば、経営者自身が名声を得たいがために、派手な投資をして、財務を悪化させるといった具合です。

 しかし、同族企業の場合、大株主である創業家と経営者は一枚岩ですから、そのような問題は起こりにくい。ゆえに強い、と説明する。

 もう1つは「社会情緒資産理論」。創業家のメンバーが、事業に対して抱く愛着にも似た感情が、企業の永続に資するという考え方です。企業とファミリーの長期的な繁栄を目指すので、目先のことにとらわれず、ビジョンや戦略がぶれないというわけです。

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