スタイリッシュで性能も優れた製品に熱狂的ファンが多いキャンプ用品メーカーのスノーピーク。山井太社長は就任以来、会社だけでなく、地元の商工会議所などでもリーダーシップをとってきた。多忙な経営者が地域活動を通して得たものとは何か。
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私は、1985年、26の時に父の会社に入社して以来、地元の新潟県三条市や燕三条地域の活動に積極的にかかわるようになりました。
実際には、20代、30代の頃から、地域での活動を、言葉はよくないですが、「やらされてきた」というのが正確な表現でしょうか(笑)。地元経営者の先輩たちから、ポンポンとボールが投げられるのです。「あいつだったら何かをやってくれる」という期待も込めてのことですから、話を断れば相手をしてもらえなくなります。先輩たちの要請を片っ端から受けてきました。
例えば、会社を継いで10年ほどして、売り上げが下がり気味だった37歳の時に、三条青年会議所の理事長になりました。市の合併運動などをしながら、合計で1000万円も飲み代に使うような、アホな理事長だったと思うんですけれども(笑)。
ただ、このとき青年会議所の理事長を務めたことは、私自身と会社を大きく成長させてくれました。この職務に就くということは、若手経営者が集まる経済団体のトップに立つということです。世間からは、地域を代表する若手経営者として見られるようになります。
20代の頃から、地元のために活動してきた (写真:栗原克己)
青年会議所では会社とは違うメンバーをまとめなければなりません。しかも、メンバーは、ある意味、めちゃめちゃわがままで癖のある人たちばかりです(笑)。苦労しました。社員だったら人事考課が力を発揮しますが、青年会議所ではそうもいきません。
では、こうした経営者たちを一つにまとめるための秘訣は何か。それは、自分が的を得た方針を掲げることです。もし翌年の方針を伝えたときに、それがピント外れだったら、誰も付いてきません。
会社では経営計画が的外れだと、ものやサービスが売れず利益が出なくなります。青年会議所では、会社という縛りがない分、すぐに人が付いてこなくなるんです。
青年会議所の目的は、地域にとって価値のある活動を行うことです。現状認識はこうで、その価値を高めるにはこうすべき。だから、この事業が地域にとって必要だと、物事の本質と真理を突いて青年会議所の社会的意義と方針を説明して、メンバーの意識を一つにするのです。
会社の公の価値を考える
この経験を通して、会社の社会的な存在意義を深く考える機会が増えました。
最近お会いした経営者の中で、地域と理想的な関わり方をしていると感じたのは眼鏡ブランド「JINS」をつくりあげたジェイアイエヌの田中仁社長です。
彼は商売一徹で成功を収め、50代に入ってからは地元である群馬県の地域活性化に力を尽くしてきました。街づくりに貢献したり、起業家を応援したりしています。仕事を続けて来て、最終的に「地元が良くならないと意味がない」という思いに行き着いた。そしてその姿を見て、後輩たちも皆、田中さんを尊敬しています。若い頃からではなく、成功してからの付き合いかもしれませんが、地元に貢献したいという尊い気持ちは地域の若い後輩に伝わっています。
私も、青年会議所などでの経験を通し、地域にとってのスノーピークの価値、さらに日本にとって、世界にとってのスノーピークの価値を考えるようになりました。つまり、公の中での会社の価値とは何かを意識するようになったのです。このことは、スノーピークという会社の発展に大きく寄与したと思います。
スノーピークのヒット製品に、「ソリッドステーク」というテントを張る際にロープを地面に固定する杭(ペグ)があります。スノーピークでは、燕三条に伝わる日本刀の製造にも使う鍛造技術を用い、固い地面にも確実にテントやタープを固定できる丈夫なペグを作りました。従来のペグは消耗品とされてきましたが、日本刀の技術を使うことで長持ちする製品にもなりました。
テントを張るロープを地面に固定する人気の杭(ペグ)「ソリッドステーク」。地元の技術を使って製造している
また、同じくヒット商品の鉄鍋「和鉄ダッチオーブン」も、燕三条地域の鋳物成型技術を使った、熱伝導に優れ、薄くて丈夫な製品です。
スノーピークが地元に根ざした高い加工技術を生かし、世界に通用する優れた製品を相応の価格で売る。これにより、スノーピークのブランド価値が高まり、地場産業の技術を海外に知ってもらうプラットフォームの役割も果たす。スノーピークは地元とともに発展していこうと常に意識しています。
私が地元に戻った当初の燕三条地域は、海外との価格競争に巻き込まれ、利益が落ちる一方でした。今では、小さな規模の会社でも、高く売れる優れた商品を作るようになり、利益が伸びるとともに、海外でも評価されるようになっています。
後輩に隠しごとはしない
青年会議所の理事長を務めたことで、私より10歳ほど若い後輩から10歳ほど上の先輩まで、地元経営者の多くと気心の知れた仲になりました。時には意見の相違もありましたが、正面からぶつかりあえた分、気持ちを通じ合うことができました。表面的に何もないよりずっとよかったと思っています。
後輩たちは僕の弟分。日ごろからよく飲みに行き、質問をされたら隠しごとはせずに答えるのが先輩である私の信条です。
スノーピークが2015年に東証一部に上場したことで、上場したいと考える地元の若者も増えました。若い頃から一切方針を変えずにやってきたことが評価されたことは、後進の励みにもなっています。
私は、三条青年会議所の理事長、三条商工会議所の副理事長を務めた後、三条市、燕市、新潟市などの製造業の経営者500人以上からなる団体、協同組合三条工業会の理事長をつい先日まで務めていました。現在は、新潟経済同友会の副代表幹事を務めています。
青年会議所の理事長を最初に「やらされた」と話しましたが、私自身、肩書きの大きさで引き受ける仕事を選ぶ人間ではありません。自分が日ごろから持つ問題意識の解決に携わることができる役割に、タイミングよく声がかかれば引き受けて尽力します。今後も社会に対する貢献を続けていきたいと思っています。
(構成:福島哉香、編集:日経トップリーダー)
スノーピークキャンプセミナー告知
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山井太社長の講演、十分に時間をとったQ&Aセッションに加え、ファンづくりに欠かせない「経営のコンパス」を確かめるワークも実施する人気のセミナー。美しい自然の中で、スノーピークの世界観を深く体感しながら、経営者としてのあり方を考える貴重なチャンスです。
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