マクドナルド不振の理由がコンビニで分かる?
第1回:「おいしいパントレンド」とハンバーガー業界への影響
普段、何気なく使っているコンビニエンスストア。そこで入ってくる様々な情報に目を凝らし、タテに深くヨコに広く分析することで、社会環境の変化とそこから生まれる新しいビジネスをイメージすることができるようになります。
「セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼最高経営責任者が退任」。4月初旬、テレビや新聞で大きく報道された記事です。このニュースが大きく報道されたのは鈴木氏の功績の大きさを物語っていますが、それと併せて、コンビニエンスストア(以下:コンビニ)の影響力の大きさにも気づかされた記事でした。
振り返ってみると、コンビニは、時代ごとに新しいサービスを提供してきました。24時間営業を始め、宅配便の取り扱い、光熱費などの振り込み、キャッシュコーナーの設置、電子マネーの利用など、新しい技術・サービスを取り込みどんどん便利になっていきました。また、商品についても、おにぎりやお弁当から始まり、肉まん、唐揚げ、おでんと幅を広げ、最近では、ドリップコーヒーやドーナツにまで領域を広げてきました。このように、全国津々浦々にまでいきわたったコンビニには、時代の先端を行くトレンドが詰まっているのです。
マックを襲ったパン革命
マクドナルドが苦戦しています。販売不振が長引き、日本マクドナルドホールディングスの業績は低迷、米本社から株式の売却話が出る始末です。14年7月に発覚した鶏肉偽装問題と15年1月に明らかになった異物混入問題などの不祥事が大きく影響しているとのことですが、本当にそれだけなのでしょうか。そこで、コンビニにヒントを求めて探してみると1つの視点が見えてきました。それは「パン」の変化です。
ここ数年でパンが急激においしくなってきているのです。コンビニも総菜パンを販売していますが、最近は、メーカーのナショナルブランド(NB)だけではなく、コンビニ独自のプライベートブランド(PB)のおいしいパンが増えてきました。米粉が入ってモチモチしたり、コーンや明太子がたっぷり入っていたり、多種多様な「おいしい総菜パン」が増えてきたのです。換言すれば、ハンバーガーという「パンを主材料とした商品」に強敵が現れたのです。そこで、「パンの変化」というキーワードをもとに、ヨコ視点を用いて他の要因を分析してみます。すると、いくつかの「パン革命」が見えてきます。
1つは、家庭用ホームベーカリーの普及です。ホームベーカリー市場は05年以降に急激に拡大しています。12年に需要が一巡し、いったん下降気味になりましたが、お米からパンを作る「ゴパン」がヒットし、再び市場が拡大し始めました。つまり、家でおいしいパンがいつでも食べられるようになったのです。特に、お米から作る、あるいは米粉をベースにしたパンは、そのモチモチとした食感が、その後の「モチモチ感トレンド」を生み出すきっかけともなりました。
次に挙げられるのが、インストアベーカリーの拡大です。インストアベーカリーとは、スーパーマーケットの中にあるパン屋さんです。最近では、スーパーの中にオーブンを置いて、そこで焼き上げるタイプのお店が急増しました。その結果、従来は特定のパン屋さんだけだった焼き立てパンが、スーパーでも買えるようになったのです。
コンビニ惣菜パンの進化、ホームベーカリーの普及、インストアベーカリーの台頭により、消費者はおいしいパンを日常的に口にするようになったのです。
ハンバーガー業界で独自路線を走っている企業にモスバーガーを展開するモスフードサービスがあります。
マクドナルドとモスバーガーの違いは、前者が価格を売りにしているのに対して、後者は素材感を売りにしていることです。価格はモスバーガーのほうが高い設定となっています。ある意味、対極的だと言えます。特にマクドナルドは、少し前に低価格路線で大成功し、デフレの成功者として、マスコミにこぞって取り上げられるほどでした。
一方のモスバーガーは独自路線を踏襲し、牛丼チェーンを巻き込んだ低価格フード戦争とは一線を画していました。つまり、マックが低価格路線でコストダウンを図っている間に、世の中で「パンの革命」が起こってしまって消費者の口が肥えてしまい、2極化をより促進してしまったのです。
社会環境の変化と事業戦略のズレ
日常的においしいパンが食べられるようになった社会において、ハンバーガーのバンズ(パン)はどのような進化をしたのでしょうか。実は、このような社会環境の変化は、顧客ニーズの変化をもたらしたのです。具体的には、
- 第1段階:日常的においしいパンが食べられるようになる(社会環境の変化)
- 第2段階:おいしいパンが当たり前となる(市場トレンドの変化)
- 第3段階:おいしいバンズのハンバーガーが食べたいというニーズが発生(顧客ニーズの変化)
という3段階で変化していくのです。このような状況の中、前述した対照的な2社の対応は、片や低価格路線に対応したコストダウン、もう一方は高付加価値独自路線の踏襲でした。
ここまでくると、マックの業績不振の一因が少し見えてきました。つまり、周りのパンがおいしくなってきているにもかかわらず、低価格路線に対応すべくコストダウンを行ってしまった結果、市場のニーズからずれてしまったと考えられるのです。
おいしいパンのトレンドは、ゴパンのヒット、インストアベーカリーの台頭から始まっていますので、ここ5、6年の現象です。実はマクドナルドの業績は、図から見ても分かりますように、14年の鶏肉偽装問題の前から減少しているのです。一方、モスバーガーは、それに相反するように売り上げを伸ばしてきています。マクドナルドの業績は「おいしいパントレンド」と逆行し、モスバーガーの業績は同調するような動きなのです。
社会環境の変化が市場トレンドの変化を生み出し、ハンバーガーに対する顧客ニーズを変化させてしまう。それもこういった劇的な変化がわずか5、6年で起きてしまうのです。コンビニで何気なく買っている惣菜パンですが、味がおいしくなってきたと感じるだけではなく、「パン」というキーワードをベースに「タテに深くヨコにつなげて分析」し、新しい社会環境の変化(革命)を見つけ出していくことが重要なのです。
日本マクドナルドとモスバーガーの業績トレンド比較
注:モスバーガーは3月決算のため、グラフの2010年は2011年3月期、以降各期も同様に表記
ますます便利になっているコンビニですが、そこには多くの市場の変化を知るヒントが転がっています。
コンビニで発見できる社会環境の変化
例えば、最近コンビニでよく見かける小容量の肉じゃが、煮物、サラダなどの総菜は、単身世帯だけではなく、高齢者にも喜ばれています。厚生労働省の国民生活基礎調査によれば、2013年現在、単身世帯と夫婦のみ世帯(2人世帯)の比率が50%近くになっています。特に、65歳以上の単身、夫婦のみ世帯が増加しています。つまり、少人数世帯が増えているという社会環境の変化が、コンビニという便利な店舗における小容量総菜のニーズを生み出しています。
また、一般消費者向けビジネスだけではなく、企業向けビジネス(BtoBビジネス)においても、コンビニからヒントを得ることができます。例えば、コンビニに定期配送しているトラックから、共同配送などの新しい物流のカタチを見つけ出すことができます。日配食品が増え、多品種小口配送の必要性が高まった結果、冷蔵機能を持つ大型倉庫が誕生し、そこでは単なる配送だけではなく、受注、仕分けまで行われるようになりました。こういった新しいカタチの物流ビジネスが生まれるトレンドもコンビニから垣間見ることができます。
キャッシュディスペンサーも、お金をおろすだけではなく、電子マネーのチャージなどもできるようになりました。こうなると、単に現金引き出し装置を販売して設置するだけではなく、ネットワークの設計・構築、現金等の取り扱いに関わる警備・輸送、装置の保守メンテなどを含めた様々な企業を統合するシステムインテグレート機能が求められてきます。
普段何気なく使っているコンビニですが、そこで入ってくる様々な情報に目を凝らし、タテに深くヨコに広く分析することで、社会環境の変化とそこから生まれる新しいビジネスをイメージすることができるようになるのです。
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