大きな腕の動きは、実は、ヒトラーの登壇技術とそっくりです。

 「じらしのテクニック」を持つと言われるヒトラーは、登壇してもなかなか言葉を発しませんでした。代わりに会場に万遍なく視線を送りながら、手を挙げ続けました。そして、ひとたび話を始めると、オーケストラの指揮者のように両腕を相手のほうに差し伸べて、次に自分の側に巻き込んで引き取る形をとります。

 トランプ大統領も同じ。就任演説の映像を繰り返し見て私は驚きました。この腕の動作につられて彼に視線を向け、その言葉を聞くうちに、みるみるうちに聴衆が一体化するのが分かったからです。

 大きな歩幅と、独特の腕の動き。この2つに加え、指先の使い方にもグリンプスバイトがありました。

 就任演説の16分30秒の間で、トランプ大統領は、指であるサインを112回出しました。覚えている人もいるでしょう。右手の人差し指と親指で輪を作り、手のひらを広げるOKサインです。

言葉が頭に入っていくサインがある

 彼の場合、OKサインを出す回数は非常に多く、その数は1分間に10回近くにもなります。言葉を強調したいときに気分が高揚し、このお決まりのポーズが出ているようです。

 “We will bring back our jobs.”(私たちは仕事を取り戻す)など、“We will……”で始まるフレーズが多いのも特徴で、文頭の言葉に合わせながら、幾度も同じジェスチャーを続けました。

 また、「麻薬と犯罪がない国にするのだ」などと言うときには、「drug(麻薬)」「crime(犯罪)」と重要な単語を並べるたびにこのOKサインを出しました。手でリズムを取っているかのように出すサインには、その動きと同時に言葉が聞き手の頭に入っていく効果があります。

 OKサインという肯定的な意味を伝える動きを繰り返されると、聞く側は、つい相手のペースに巻き込まれ、その意見に対して知らず知らずのうちに肯定的になってしまうことが予想されます。

トランプ大統領は、就任演説の際、16分30秒の間に112回のOKサインを出した。佐藤氏が顔面動作符号化システムを使い、0.5秒単位で表情とリアクションを分析した(写真:Abaca USA/アフロ)
トランプ大統領は、就任演説の際、16分30秒の間に112回のOKサインを出した。佐藤氏が顔面動作符号化システムを使い、0.5秒単位で表情とリアクションを分析した(写真:Abaca USA/アフロ)

 この表現方法は、例えば、皆さんが、部下に大事なことを伝えるときにも応用できます。

 OKサインでなくても結構です。手のひらを相手に向け、人差し指を立てたサインでもいいでしょう。ポイントとなる言葉をリズムよく語りながら、そのテンポに合わせて自分なりの決めポーズを繰り返してください。聞く側の視線があなたに集まり、注意を払う様子が見てとれるでしょう。

次ページ 持ち物も印象に残すツール