2017年1月20日、ドナルド・トランプ大統領が行った就任演説には、聴衆を引きつけるアクションがいくつも盛り込まれていた。演説中、112回繰り返したある動作にはどんな効果があったのか。分析するのは、パフォーマンス心理学者の佐藤綾子氏。首相経験者を含む政財界のリーダーのスピーチコンサルタントを務めてきた。自己表現の専門家が語る、トランプ大統領に学ぶべき表現技法とは。
2017年1月20日、3つのテレビ局から依頼を受けて、ドナルド・トランプ大統領の就任演説を分析した私は思わずうめきました。内容はさておき、聴衆を引きつけるのに効果的なアクションがいくつも盛り込まれていたからです。「これだけのテクニックを駆使されたら、見ているほうも聞き入ってしまうに違いない」と納得するほどです。
成功するビジネスパーソンは、言葉の内容を強化する表現技術を備えています。
「表現されない実力は存在しないも同じ」と語る佐藤綾子氏
私は38年間、パフォーマンス心理学者として、相手に伝わる自己表現の手段を研究してきました。首相経験者を含む53人の国会議員のほか、累計約4万人のビジネスリーダーやエグゼクティブのスピーチコンサルタントを務めてきました。
どんなに素晴らしい実力を持っているビジネスパーソンだとしても、「表現されない実力は無いも同じ」です。特にトップリーダーには、自らのビジョンを分かりやすく語る「語りのスタイル」が欠かせません。
この連載では、トランプ大統領や小池百合子都知事ら、今注目を集めるトップリーダーの語りのスタイルを分析し、一般のビジネスパーソンが明日から使えるノウハウを引き出したいと思います。
1~2秒の勝負に勝つ
パフォーマンス心理学には、「グリンプスバイト」という専門用語があります。グリンプスは「一瞥(いちべつ)」、バイトは「噛みつく」こと。つまり一瞬で相手の心をわしづかみにする身振りや手振りのことを指します。
人は2秒で相手の表情を読み取り、集中すればわずか1秒で約1万1000個の視覚情報を読み取ることができます。その間、瞬時に相手が敵なのか味方なのか、またどんな人柄なのかを判断してしまいます。相手の言葉を論理的に理解するのはその後。ですから、話し手は、相手の視覚に効果的に働きかけ、好印象を残すことが大切です。
では、トランプ大統領は、どんなグリンプスバイトを使っているか。就任演説の登場シーンから振り返りましょう。
最初に目に付く特徴は歩き方。注目すべきは手足の動きです。ステージに登壇するまで、大股で歩き、両腕も大きく振っています。
歩幅の大きさは、自信やエネルギーの強さを印象付けます。大股で歩くほど、堂々として頼りがいがある人に見えます。脚を大きく前に出すトランプ大統領の歩き方は、元気なイメージと若さをアピールし、70歳という年齢を感じさせません。
登壇後の腕の動きも非常に大切です。顔の表情筋の動きと異なり、動きそのものが大きいので、30m先からでもよく見えるからです。
この就任演説に限らず、トランプ大統領の腕の動きは特徴的です。専用機から降りるときにはよく、片手を大きく上げ、満面の笑みを浮かべます。このときもステージに上がるやいなや右手を高く上げて「こんにちは皆さん」と挨拶しました。その手の動きに、つい聞き手は視線を吸い寄せられるのです。
大きな腕の動きは、実は、ヒトラーの登壇技術とそっくりです。
「じらしのテクニック」を持つと言われるヒトラーは、登壇してもなかなか言葉を発しませんでした。代わりに会場に万遍なく視線を送りながら、手を挙げ続けました。そして、ひとたび話を始めると、オーケストラの指揮者のように両腕を相手のほうに差し伸べて、次に自分の側に巻き込んで引き取る形をとります。
トランプ大統領も同じ。就任演説の映像を繰り返し見て私は驚きました。この腕の動作につられて彼に視線を向け、その言葉を聞くうちに、みるみるうちに聴衆が一体化するのが分かったからです。
大きな歩幅と、独特の腕の動き。この2つに加え、指先の使い方にもグリンプスバイトがありました。
就任演説の16分30秒の間で、トランプ大統領は、指であるサインを112回出しました。覚えている人もいるでしょう。右手の人差し指と親指で輪を作り、手のひらを広げるOKサインです。
言葉が頭に入っていくサインがある
彼の場合、OKサインを出す回数は非常に多く、その数は1分間に10回近くにもなります。言葉を強調したいときに気分が高揚し、このお決まりのポーズが出ているようです。
“We will bring back our jobs.”(私たちは仕事を取り戻す)など、“We will……”で始まるフレーズが多いのも特徴で、文頭の言葉に合わせながら、幾度も同じジェスチャーを続けました。
また、「麻薬と犯罪がない国にするのだ」などと言うときには、「drug(麻薬)」「crime(犯罪)」と重要な単語を並べるたびにこのOKサインを出しました。手でリズムを取っているかのように出すサインには、その動きと同時に言葉が聞き手の頭に入っていく効果があります。
OKサインという肯定的な意味を伝える動きを繰り返されると、聞く側は、つい相手のペースに巻き込まれ、その意見に対して知らず知らずのうちに肯定的になってしまうことが予想されます。
トランプ大統領は、就任演説の際、16分30秒の間に112回のOKサインを出した。佐藤氏が顔面動作符号化システムを使い、0.5秒単位で表情とリアクションを分析した(写真:Abaca USA/アフロ)
この表現方法は、例えば、皆さんが、部下に大事なことを伝えるときにも応用できます。
OKサインでなくても結構です。手のひらを相手に向け、人差し指を立てたサインでもいいでしょう。ポイントとなる言葉をリズムよく語りながら、そのテンポに合わせて自分なりの決めポーズを繰り返してください。聞く側の視線があなたに集まり、注意を払う様子が見てとれるでしょう。
持ち物も印象に残すツール
身振り手振りだけではなく、服装や持ち物も相手の心をつかむ大切なツールです。パフォーマンス心理学では、モノも気持ちを表現するツールとして「オブジェクティクス」と言います。
オバマ前大統領に比べ、政治理念が深みに欠けると誰もが何となく感じていたトランプ大統領。
そこで彼は、自分の話が正統で、伝統的で、重みのあるものだと強調するため、宣誓式にあるモノをこれまでの大統領よりも多めに持参しました。何でしょうか。
聖書です。登壇してすぐに聖書を2冊、スピーチテーブルに置き、その上に手を重ねました。2冊のうち、上の1冊は黒い聖書。リンカーン以来、歴代の大統領に引き継がれているものです。トランプ大統領はその下にさらに赤い聖書を重ねました。これはトランプ家で受け継がれてきた聖書でした。
過激な発言が目立っていたトランプ大統領が、2冊も聖書を持って登壇することで、その信仰深さを念入りにアピールしたのです。
さて、では日本人のリーダーは、どんな「オブジェクティクス」を使えば、自分の正当性が伝わりやすいでしょうか。皆さん、考えてみてください。
(構成:福島哉香、編集:日経トップリーダー)
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