「棣鄂さんは、オーダーをかけると、自分が思っている以上の麺を作ってくれます。そこで、さらに自分の思いを伝えていくと、またまた麺のレベルがどんどん上がっていきます。麺を楽しんでいる会社ですよ!」

 では、てつじさんは、芳典さんにどのようなオーダーを話したのでしょうか?

 芳典さんが書き留めたカルテにはこう書かれています。「食感は、口どけ軽くエアー。そして空を飛ぶような……」。もしかしてこれは、筆者が食べた「空飛ぶ小麦」のオーダー表じゃないですか!

 「麺の種類って、太い・細い・ちぢれ・ストレートぐらいですよね? そこで新しいジャンルの麺を作りたい、って言ったんです。軽いというジャンルの麺をお願いできないか? と。もう器がなくても宙に浮いているくらいの麺です」

 なるほど、確かに「軽い」食感でした! それがエアーだったんですね。

てつじさん(左)に麺を見てもらう

 工場長の和典さんは、このオーダー、どう思ったのでしょうか?「いや~、どういうふうに実現しようか非常に迷いました。麺の中に空気入れることはできないかな? とか(笑)。非常に困りました」。

 そりゃそうですよね! しかし、和典さんは、ある考えに辿り着きます。小麦粉の種類を見直しました。通常、麺に使われる小麦粉ではなく、軽さを強調するため、ケーキなどのふわふわのスポンジ生地で使われる小麦粉を使ったのです。そして、でき上がった麺。

 てつじさん、どうだったんですか?

 「いや~、よく伝わったなぁ、と思いましたよ! しかも、ただ軽いだけでなく、麺の風味もしっかりありました。さすが棣鄂さんです! しいてダメ出しを言うなら、ホンマに宙に浮かして欲しかったくらいですかね」

 てつじさん! 麺にかける意気込みは分かりますが、さすがに、もうそれは、次の世紀くらいじゃないと……(苦笑)。

 このように、打合せの段階から社長・芳典さんが自ら日本全国どこでも店に足を運び、徹底的に話を詰め、細かいカルテを作っていきます。そうして双方納得いく麺が完成すればそれですべてOK! かというと、これがそう簡単ではないそうで……。

麺にも流行廃りがある

 芳典さんいわく「ファッションと同じで麺にも流行り廃りがあるんです。『このお店には、この麺で10年大丈夫』と思っていたら、そう甘くはなかったんです」。

 確かに、スープにしても麺にしても、その時々でいろんなタイプのラーメンやつけ麺が流行りますもんね。我々は只々美味しく頂戴していますが、皆さんの大変な苦労の上に成り立っている世界なんですね。棣鄂は常に時代のニーズを敏感に感じ取り、新しい麺を生み出していたんです。

【メソッド4】(時代のニーズ)に合わせた麺作り

 では、ここで「麺屋棣鄂」の成功メソッドをまとめてみましょう。

【麺屋棣鄂の「麺史上初」メソッド】
【メソッド1】大量生産から( オーダーメード )の製麺所に変えた
【メソッド2】顧客の要望に応えるため( 設備投資 )を惜しまない
【メソッド3】( 麺 )と( スープ )の関係を崩す営業はしない
【メソッド4】( 時代のニーズ )に合わせた麺作り

 毎回番組では、取材の最後に、「おとなフィロソフィ」と名づけて、経営者やリーダーに企業理念や経営哲学を端的に語ってもらっています。

 兄弟2人で作り上げてきたオーダーメードの中華麺。今やラーメン店だけでなくイタリア料理店のパスタの代わりに使われるなど、ジャンルを飛び越え、麺業界に新たな風を吹き込み続け進化してきた麺屋棣鄂。

 社長の芳典さんに「おとなフィロソフィ」を聞いてみました。

 「指揮者はあくまでもラーメン店主さんなので、そこに麺屋の我々が前に出て行くと調和が崩れます。一杯のラーメンの完成度を上げるために、棣鄂の麺は“大いなる、素晴らしい黒子”でありたいんです。主役になったとたん、我々の人気は落ちると思います」

 倒産の危機にあった店を受け継いだとき、想像を絶する苦労が知見さん兄弟を襲ったことでしょう。その危機を乗り越えるためにたどり着いた「オーダー麺」は、ラーメン屋さんに「麺を生かしてもらう」ところからスタートしました。それは、麺がスープを、またスープが麺をどちらも邪魔することなく「相性」を一番に考えることでした。

 そこからの地道な努力で全国のラーメン店が「棣鄂の麺を使いたい!」と言ってくれるようになりました。そうなると麺が主役の扱いになりそうなものですが、芳典さんは受けついだ当時の苦労を忘れることなく、「大いなる、素晴らしい」誇りを胸に、むしろ自らを戒めるように「黒子」であり続けることを誓ってらっしゃいます。

 筆者のようなアナウンサーも、前に出るのではなく「大いなる素晴らしい黒子」であることが仕事の調和を保つ一番の秘訣かもしれません。

 小さい頃から、おやつもごはんも、いつも同じ量だった知見さん兄弟。営業と製造、仕事内容は全く違う2人。

 初代である2人の祖父が付けた屋号「棣鄂」は中国の故事「棣鄂の情」から引用したそうです。「棣」は庭梅、「鄂」は花の「がく」のこと。庭梅の花は「がく」が寄り添って美しく咲くことから、「棣鄂』』とは仲の良い兄弟を意味する言葉だそうです。

(この記事は「~オトナ度ちょい増しTV~おとな会」2016年6月15日放送分を元に構成しました。編集:日経トップリーダー

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