【メソッド3】桶職人に(???)して伝統を守る

 山本さんの醤油への愛はまだまだ続きます。

 全国各地でファンが増えた「ヤマロク醤油」では、年中無休・予約なしで、いつでも蔵の見学ができるようにしました。

 その数、なんと年間2万人! に、に、2万人ですよ!醤油蔵の見学に2万人ですよ! 醤油スポーツでもないし、醤油アイドルでもないんです。見学です。瀬戸内海の小さな島にその人数を呼べる集客力! コレはかなりのファンのハートをがっちり掴んだ証でもありますよね。

年間2万人が醤油蔵の見学に訪れる
年間2万人が醤油蔵の見学に訪れる

 もちろん、ただ見学できるだけでなく、醤油の奥深さを料理とは違う角度で知ってもらう為に「ヤマロク茶屋」という喫茶スペースも併設しました。こちらでは「醤油プリン」(320円)や「アイスクリーム鶴醤かけかけ」(320円)などのメニューもあり、コレを目当てに訪れる女性グループのお客さんも増えました。

 山本さんは、美味しい木桶醤油を、大勢の人に知ってもらうために、閉鎖的なイメージの醤油蔵の間口を広げたのです。

やがて来る、木桶がなくなる日

 しかし、山本さんには最も危惧することが、まだ残っていました。

 それは、いずれは「木桶を作る職人がいなくなる」ということでした。150年使い続けている木桶を前にして、山本さんはこう話します。「私の生きている間はこの桶も使えるんですが、子どもや孫の代となると桶の寿命が来て使えなくなってしまうんです。そして、その木桶を作る会社がもうあと1社しか残ってなくて、そこも2020年には廃業される予定なんです」。

 え、廃業のタイミングが決まっているって、どういうことなんでしょうか?

 その職人さんは、大阪・堺市にある「藤井製桶所」の上芝雄史さん。現在66歳。木桶造りは、相当な体力が必要だそうで「本当は50歳そこそこが限界だと思います」と話す上芝さん。「今の時代は機械によって代わりにできる作業があるので、この年齢でも続けていられますが、現実、一つひとつの材料の重さを考えると自分が70歳になる時が限界だと思います」。

 なるほど、そういうことだったんですね。

 その現実を受け入れた山本さんは、これまたとてつもない決断をしたのです。

 「誰もやらないなら自分がやるしかないな」と、2012年、小豆島から友人の大工さん2人と共に「藤井製桶所」に弟子入りしたのです。いやいや、「弟子入り」って! この時、山本さん39歳。……山本さんの決断力と実行力には、ただただ恐れ入ります。

 弟子入りして、渡された「桶の教科書」は、手書きで記された4枚のメモのようなものだけだったそうで「見て覚えろ! やって覚えろ! 作るから見ておけ!」でした。長い竹を2本持ってきて15分くらいで上芝さんが編むのですが、その後すぐに「やれ!」って。

 「できるはずないですよね(笑)」そりゃ、できるわけがありません。しかし、一方の上芝さんに聞くと「3人来たときに問題なく桶職人ができると思ったのは山本さんでした。大工さんより山本さんの方が飲み込み早かったですよ」と当時を振り返ります。やっぱり木桶に対する想いがそうさせたのかもしれませんね。

 木桶作りは、まず杉板を湾曲に削る所から始まります。削られた板と板を竹くぎで合わせて、桶の形に丸く組み合わせます。そして、竹を削って編んだ「タガ」で杉板を外側からしっかりと止めます。この作業が一番の難所だそうで、きちっと「タガ」で締めないと醤油が漏れてしまいます。

 実は木桶には鉄の釘は使えません。鉄などの金具で止めると醤油の塩分で錆びてしまい、100年持つ木桶にならないからです。そこでタガには竹が使われるのですが、タガを作るのに必要な竹は、長さ13メートルを越える特別なもの。しかし、13メートル級の竹を島の外から運搬してくるのはかなり大変なこと。山本さんは竹の調達に困りました。

「あの時は、本当に困りましたね~」。そりゃそうでしょうね。
「そこで近所の方に相談したんです」。なるほど。
「するとね、『お前の死んだ爺さんが、お前のことを考えて裏山に竹を植えていたぞ』と言ったんです」
 えっ! ま、まさか! ほ、ホントですか?
 そうなんです!

 山本さんの家の裏山に行ってみるとそこには、立派な真竹が育っていました。こんなことがあるんでしょうか?

おじいさんが真竹を育てていた
おじいさんが真竹を育てていた

 この竹を見た瞬間、山本さんはこう思ったそうです。

 「僕の仕事は醤油を造る仕事ではなく、これを継いでいくことが仕事なんだと。やっと分かりました。きっとお爺さんも先のことを考えてこの竹を植えていてくれたんだなぁ、と」

 そして、大勢の方々の手伝いもあり2013年秋、小豆島で新たな木桶が完成しました。そして2016年の秋、つまり、間もなく、最初の醤油が搾り出されます。新しい木桶から搾り出された最初の醤油はまた特別な風味があるそうです。

 こうして木桶作りを覚えた山本さん。今では、木桶の作り方全てを無償で、他の醤油蔵に教えているんだそうです。それは、木桶仕込みの醤油を150年先にも残したいとの一心からでした。

【メソッド3】桶職人に( 弟子入り )して伝統を守る