そんな中、山本さんは思い切った方向転換に出ました。「醤油の品質を落として安く売る」という現状に納得していなかった山本さん。なんと、7割を占めていた安い主力商品の製造を中止。3割に過ぎなかったこだわりの木桶醤油だけで、ヤマロク再建に向けて勝負に出たのです。
「せっかく木桶で醤油を造っているのに大手と同じように安売りをしていたんです。その安い醤油を減らしていって、空いた桶に良い醤油を仕込んでいって、あとは全部やめました!」

いや、しかし山本さん! 7割の主力を止めるというのは、とてつもない決断ですよ! 怖くなかったのでしょうか? ビビリの筆者には到底及ばぬ決断です。
その結果造ったのは、こだわり抜いた2種類の醤油。
1つ目の醤油、その名も「菊醤(きくびしお)」。世の多くの醤油は白い大豆で造られていますが、山本さんは原価の高い京都・丹波の黒大豆で仕込み2年をかけて完成させました。あっさりとしたキレのある旨みと、コクを引き出した正統派のお醤油です。
そして、もう1つはさらに手間ひまをかけた「鶴醤(つるびしお)」。「鶴醤」は、「再仕込み製法」と言われるとても贅沢な醤油の造り方。通常の醤油は塩水に麹を入れて造るのに対し、「再仕込み製法」では、塩水ではなく2年かけて造った醤油の中に麹を入れて仕込む製法なのです。製造期間も4年と長く、その間、天然酵母の発酵次第では台無しになってしまうリスクがあるのですが、見事に出来上がったら、その味は絶品!

山本さんはこの2つの商品にヤマロク醤油の未来を賭けたのです。
【メソッド1】( 高品質 )な商品に絞り込みブランド化する
さあ、それではメソッド2にまいりましょう。
【メソッド2】(???)による販売で個人客を取り込む
山本さんの革新はさらに進みます。
せっかく造った木桶醤油を、1人でも多くの人に味わって欲しい! と、業務用の販売を大幅に縮小し、小売販売中心に切り替えたのです。そこで、始めたのが145ミリリットルのミニ瓶での販売です。今までの販売の中心は1.8リットルサイズ。145ミリリットルのサイズに小さくすれば、その分、輸送や梱包などの手間とコストはかかります。しかし、サイズを小さくすることでお客さんが気軽に試し買いができます。さらにそれだけでなく、味そのものにも良い効果がありました! 元来、美味しく頂ける期限が1カ月と短いのが醤油。その美味しくて新鮮な状態で使いきることができるようになったのです。
手間がかかっても個人への直販に
思えば、確かに醤油もこれだけ種類が出ているので、色々試してみたいんですが、1人暮らしだったりすると使い切るには時間もかかりますし、使い終わりの頃には辛くて旨みが抜けていることも多いですよね。
「時間をかけてきちっと良いものを造って、お客様に良いものを味わっていただきたい、ただ、その思いだけです」と話す山本さん。「今までのように業務用でドッと出荷すれば楽だったのですが、個人の直販で売っていった方が色んな方にお醤油を味わってもらえますもんね」。
主力商品をやめ、さらには業務用も大幅に縮小した山本さん。いやはや、思い切り過ぎる気がして、他人事ながらヒヤヒヤします。
しかし、その結果、実に30年間低迷した業績は見る見るうちに右肩上がりになり、こだわりのある蔵として広く知れ渡るようになりました。こうしてヤマロク醤油はブランド化に成功したのです。やはり素晴らしい決断だったんですね!
【メソッド2】( 小瓶 )による販売で個人客を取り込む
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