中井:もう1つ言われたのは、「金銭出納帳をつけろ」と。僕は小学校、中学校で、絵日記もろくにつけたことがない私でしたが、「金銭出納帳をつけていたら一人前の商売人になれるのか、だったら」とつけ始めました。

 これです。道で5円拾った、10円拾った、克明に記帳されています。この金銭出納帳を5年間つけていました。実は、この金銭出納帳は千房を創業するときに、わずか80万円しか預金がなかった私を助けてくれました。6年間にわたってごく少額の取引のあった信用組合が、これを担保とみなして3000万円、無担保で融資してくれた。これで千房が誕生したのです。

上泉:じゃあ、もしこの出納帳がなければ?

中井:千房は誕生していません。

上泉:つまり小さい頃に、そのお小遣い帳をつけていなければということですよね。

中井:15歳から20歳までつけていたんです。

「お金を拾う、10円」まで

上泉:ちょっと拝見していいですか。うわー、すみません、鉛筆で事細かく。
 ええと、お金を拾う、10円(笑)。そんなことをしていたんですか?
 兄に金をもらう、80円。
 ありゃ、仕事のズボンの修理で70円出ていきました。
 社長、3000円入ってますよ。これは大きいですよ。何ですか?

中井:給料。

上泉:給料が入った。3000円。全部ついていますもんね。つめ切り1個50円、ジュース1杯10円。

中井:散髪1枚刈り70円。

上泉:これを15歳から全部つけてはって。やっぱり一番いいのはお金を拾う、これが効いていますよね。ただ、収入をやりくりして映画を見に行ったりもされてますね。

 うーん、その意味ではきっちりしてはるんでしょう、中井社長は。

中井:はい。だから、この帳面にも書いていますけど。

上泉:「正直第一」。これはいつ書きはったんですか? 正直第一は。

中井:これを手に入れたときに。

上泉:15歳で。

中井:はい。まじめに生きようと。

上泉:正直第一があったから、今の千房はこれだけの大きな会社になった。僕は初めて見せていただきましたけど、ちょっと鳥肌が立ちますね。

中井:いえいえ、そんなつもりでつけていたわけでも何でもないんです。結果的にそうやったんだなと思うだけです。

 ただ、兄が私に言ったこと、あるいは尊敬する人が言われていたことは、忠実に実践しようと。だから私の能力でもなければ、私の結果でも何でもない。ただ私は、誰かのアドバイスを素直に守ってやっただけ。やった結果、こうなったというだけです。

 今の若い人たちに、「こうしたら絶対大丈夫」とアドバイスはするんですが、彼らはちょっとは努力するんですが、やっぱりやめてしまうんですね。

上泉:中井さんの思いというか、中井(ナカイ)ズムが、あと100年、200年続くと、もっともっと大阪に、そして日本中にいっぱい、元気な素敵な会社ができるんじゃないかなと、本当に思っております。

(この記事は5月28日に開催した対談イベントを基に構成しています。構成:日経トップリーダー。上泉アナウンサーが司会を務めるテレビ番組「~オトナ度ちょい増しTV~おとな会」についてはこちらをご覧ください)

この連載が本になりました!

 この連載をベースに大幅に加筆・再編集した『儲かりまっか? の経営道』が発売になりました。上泉雄一さんが、ナニワ的な独創性で頑張る企業を取り上げ、その強さと面白さの秘密に迫ります。鳥貴族の大倉忠司社長、がんこフードサービスの小嶋淳司会長、千房の中井政嗣社長など、関西を代表する経営者へのインタビューも盛り込みました。

 詳しくはこちらをご覧ください。