千房では非行に走って施設に入った少年・少女や、元受刑者などを積極的に雇用し続けている。日本財団による協力のもと『職親プロジェクト』と名付けたこの活動は、中井社長自らが施設を回り面接をするほどの力の入れようだ。他社へも積極的に参加を呼び掛けている。
非行少年が自立できるよう支えていく
上泉:非行に走ってしまった少年や少女を雇い入れ、職業訓練をしながら更生させようと頑張っておられます。最初に預かった時に勝手が違う、難しいとか思われなかったですか。
中井:職の親としては、目的は単純な話で、自立、独り立ちをしてもらうことです。そのために衣食住を提供し職業訓練もする。税金を使い反省し矯正教育を受けた人が、自立できれば納税者に変わる。日本では初犯は減少傾向だが再犯率は年々上がっており、その大半は無職なんです。自立さえできれば本人も家族も喜び、再犯は減り納税者が増える。そして、被害者の方にも罪を償えるでしょう。いいことづくめなんですよ。
上泉:どんな人でも受け入れているんですか?
中井:いや、そこは面接をしてしっかり見極めます。本当はなるべく多くの人を受け入れたいところなんですが、残念ながら社内が混乱しかねないような人物は入社してもらうわけにはいきません。
ただ、『反省』は一人でできても『更生』には周りの力が必要なんです。入社してぐっと良くなる人もいますから、もっと多くの会社にも参加してもらいたいんです。
アルバイト1人を喜ばせれば、全従業員が喜ぶ
上泉:お店に伺うと、社員が千房で働いているのが嬉しそうというか――。千房というブランドに誇りを持っているように感じられます。
中井:会社が一人の従業員に対してすることは、実はみんなにしてると一緒なんです。みんなが見ていますから。だから、一人ひとりを大切にしなくちゃならない。

ある時、いつもは元気なアルバイトがしょんぼりしていることに気付いた。母親が病気で入院したという。店長にお見舞いはどうしたか確認すると、社員でなくアルバイトだから、まだだと答えた。すぐに行くように指示したところ、病院で面会した母親は涙を流して喜んだ。こうした姿勢は、1人のアルバイトだけでなく全従業員に勇気と希望を与えている。
上泉:中井さんのお話を伺っているうちに、経営者というよりお坊さんの話を聴いているような感じがしてきました。
中井:経営とは、仏教から来ている言葉で『お経を営む』と書いてある。経済は経世済民が語源となっていて、「世を経め(おさめ)民を救う」を略した言葉です。つまり経営も経済もただの一言もお金儲けのことを書いてないんです。それよりも、世のため人のためお客さんや従業員に喜んでもらったら、数字は後からついてくるんです。
お経を営んだり、民を救ったりした結果が売り上げや利益につながる。私は数字が分からんかったが、知らず知らずのうちに何かそういうことを徹底的に大切にしてきたように思います。その結果、ああそうなってんなぁと。
一般に成功者と言われている人の共通項は2つあります。『良い人と出会ったこと』と『運が良かったこと』。運は一人だけのもの。縁はお互いのもの。そして、縁を大事にしていると運も良くなる。運が悪い人は縁をおろそかにしており、ないがしろにしてる。自分の今日までの成り立ちは全部縁であり、縁が今を作ってくれているんです。
(この記事は書籍『儲かりまっか?の経営道』を再編集しました。構成:西村美鈴、編集:日経トップリーダー、上泉アナウンサーが司会を務めるテレビ番組「~オトナ度ちょい増しTV~おとな会」についてはこちらをご覧ください)
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