そして厳しい家業を救うべく大手企業を辞め、社運を賭けたこの「土鍋開発」に名乗りをあげたのが、今回の主人公・長谷園八代目の長谷康弘さん(46)です。

大手企業を辞めて土鍋開発に乗り出した8代目の康弘さん
大手企業を辞めて土鍋開発に乗り出した8代目の康弘さん

 康弘さんは「いいものをもっと世に広めたらなんとかなるんやないか?」と連日試作品を作り、そして試食を繰り返す毎日でした。1日3食以上に「これでもか!これでもか!」と土鍋を作っては、米を炊き、試食を繰り返す毎日。炊いたお米が、自分達で食べきれない場合は、従業員やご近所の方に食べてもらっていたそうです。

試行錯誤に4年、試作品は何と1000台以上

 「最初のうちは喜んでもらえましたが、そのうち嫌がられるようになりました(笑)」
 「嫌がられるくらいの量」って、一体、どのくらいご飯炊いていたんでしょうか!?
 陶器職人さんが作った土鍋で炊いたご飯。普通に食べれば間違いなく美味しいはず。
 火加減の調整をせず、吹きこぼれないという「使いやすさ」、そして炊き上がったお米の味にこだわる「おいしさ」。失敗を繰り返す長い試作のなかで「妥協したくなった時」は何度もあったでしょう。しかし、会社のため、お客様のため、なによりも「土鍋の良さを知ってもらうため」試作に試作を重ね、形状や構造の試行錯誤を繰り返すこと4年。作った試作品は、なんと1000台以上!せ、せ、せ、1000台!その結果、ついに、火加減の調整が要らず、吹きこぼれず、しかも美味しく炊ける“究極の土鍋”「かまどさん」が誕生します。
 完成の決め手になったことについて聞いてみると……
 「う~ん、企業秘密ではあるんですが(笑)」
 そりゃそうですよね!でも、そこをなんとかお願いします!
 「土鍋のお尻の部分(底)を厚く成型して、内側に熱がなかなか届かないようにしたんです。ポイントは熱を伝えやすいようにするのではなく、熱を伝えにくくすることです」 まさに「逆転の発想」でした。
 鍋底を厚くすることで、熱がじっくり、ゆっくり伝わります。これによって昔から伝わる美味しいお米を炊く際の極意「はじめチョロチョロ、なかパッパ」という難しい火加減、弱火から強火への変化を土鍋自体が行ってくれ、例えば3合用の土鍋だと中強火でたった15分炊くだけで、火加減の必要は一切なく美味しく炊き上げることに成功しました。

 そして、もうひとつのポイント「吹きこぼれ」の克服。
 これには土鍋初の「二重蓋」を導入しました。この二重蓋は溢れる蒸気を内側で抑え「圧力釜」の役割も果たしてくれます。

二重蓋で吹きこぼれを克服
二重蓋で吹きこぼれを克服

 さらに保温性も高まり余熱での蒸らしも効率的となりました。火加減を調整することなく15分コンロにかけた後、火を止めて20分蒸らすだけ。これだけで簡単に美味しい「土鍋ご飯」が炊き上がります!
 どうです? この土鍋欲しくなりませんか?
 実際、この手軽さと美味しさは口コミで広がり、「かまどさん」は65万台を超える大ヒットとなり、長谷園倒産の危機を救ったのです。
 「できあがってしまえば簡単なものなんですが、さんざん試行錯誤したんでかわいいもんです。本当に宝です」と、わが子を慈しむかのように「かまどさん」を扱う康弘さん。その穏やかな目に様々なご苦労を察します。

【メソッド1】( 実用性 )と( 利便性 )を両立した土鍋を開発

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