【メソッド1】当たり前だった星空を(???)にした

 これまで阿智村の観光の中心は、美肌の湯といわれる昼神温泉でした。1973年に出湯した歴史が浅い温泉郷ですが、名古屋から車で1時間30分という好立地であることから中京圏の団体客が殺到し、2005年の「愛・地球博」の頃は、阿智村にある20軒を越える宿はどれも大賑わいだったそうです。

 しかし、観光客はこれをピークに、12年には27%も減少し、廃業する旅館も出始めていました。

 そんな村の危機に立ち上がったのが、温泉の観光案内所で働くスタービレッジ阿智CAPC事務局長の松下仁さんでした。3年前まで、温泉宿で働いていた松下さんは、客足が遠のいていった状況を、身を持って感じていた1人です。松下さんは「温泉といっても日本中にありますし、ここにしかない新しい魅力を打ち出していかなければならないな、と感じていたんです」と、当時を振り返ります。

 そこで、「そば打ち体験」「パワースポット巡り」などを企画しますが、一向に集客に繋がりません。さらに、夜になると山の中の温泉郷なので辺りは真っ暗になってしまいます。いつしか阿智村は「日本一暗い村」などと呼ばれるようになりました。

普段から見ているものなのに

 「ここにしかない強みは何なのか?」と皆が行き詰まっていたとき、村のスキー場で働くスタッフから「宿直の時に山頂で見る星空がこの上なく綺麗だ」という話を聞きつけました。阿智村にはゴンドラで登った山頂にある標高1400mの「ヘブンスそのはら」というスキー場があります。冬のスキーシーズン中でもナイター営業はしていないため、夜の星空の美しさは、宿直のスキー場スタッフしか知りませんでした。「そうは言っても温泉街でも星は十分綺麗に見られるしと、思っていたんですが、そこまで言うならと試しに行って、星空を見上げたら……それはそれは素晴らしい星空だったんです!」と当時の興奮を思い出しながら話す松下さん。普段、星を見慣れている阿智村の皆さんが驚くぐらいですから相当な美しさだったのでしょう。

星空の魅力を見出した松下さん
星空の魅力を見出した松下さん

 「これは十分観光の目玉になる!」と確信した松下さん。夏の夜、山頂に星を見に行くツアー「星空ナイトツアー」を企画、星に村の命運をかけた営業をスタートさせます。

 ところが、12年8月1日のナイトツアー初日のお客さんは、ほとんどが関係者の家族で、本当のお客さんはたった3人。えっ、なんかAKB48の初日の公演が7人のお客さんからスタートした伝説みたいじゃないですか! でもAKBは7人、ACM(阿智村)は3人じゃないですか!松下さんは「初年度の目標は5000人だったので、『これはヤバイぞ』と思いましたね」そうでしょうね。いくらなんでも3人では……。

 そこで、集客のためには、顧客満足度を上げなければならないと、ツアーに工夫を凝らします。お客さんは、冬はスキー用に使われるゴンドラに揺られて、山頂までの15分間は闇の中を進みます。一方で山頂ではライトを煌々と照らし、明るい状況を作りました。

 え? 明るかったら星空が見辛いんじゃないですか?

 「暗闇の中、ゴンドラに乗って山頂に行くのは日常では体験できません。非日常の空間で期待感をあおりながら山頂に到着した所は、明るくて最初は星が見えないのですが、カウントダウンで一気に照明を落とし満天の星空を楽しんでいただくんです」と、松下さん。なるほど、心憎い演出です。そして、星が現れるとレーザーポインターを使って星空について解説をするほか、松下さんが監修した星座の物語を紹介するアニメーションまで作りました。「実際に来られるお客様は若い方が中心なので、解説やアニメも難しい内容ではなく、心から楽しめる『星のエンターテインメントパーク』を目指したんです。感動は誰かに伝えたくなりますから」。

ゴンドラ乗り場にはこの行列
ゴンドラ乗り場にはこの行列

 結果、この評判が口コミで広がり、初年度の集客は6535人と目標を大きくクリアしました。ナイトツアーの開催は4~10月。この間、ほぼ休むことなく毎晩行っていますが、平日でも500人、週末ともなると1日2000人が訪れ、15年には、初年度の10倍近い6万2714人を動員するまでになりました。まだ正確な数字は出ていませんが、17年は何と10万の動員を見込んでいます。人口6500人の村に10万人ですよ!驚くべき星空効果です。

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