さらに、地元の城崎文学館では、万城目さんが『城崎裁判』をどうやって書いたのか、その経緯を展示したところ、こちらにもファンが詰めかけています。

 実はこの『城崎裁判』作りもちょっと変わっています。表紙はタオル、中は、ストーンペーパーを採用し、濡れてもいい仕様になっていて、温泉に浸かりながらでも読めるんです。城崎の温泉に浸かりながら『城崎裁判』を読む。なんて贅沢なひと時でしょうか!

 この城崎でしか買えないという仕掛けが、ベストセラー作家の心をつかむようで第3弾は『告白』や『少女』などの湊かなえさんが執筆。こちらは、カニを食べる要領で本を殻から引き出して読む、これまたユニークな作りです。

 「これまでとは違う客層が城崎に来ています」。そんな手応えを感じている、NPO法人・本と温泉理事長で錦水旅館代表の大将伸介さんは「城崎=カニ、じゃないものを作っていって、いろんな城崎の魅力を発信していければと思っています」。

 どうです? こんな小説読んでみたくなりませんか?もちろん、これらは城崎に行かないと手に入りません。ぜひこれらをお目当てに城崎にお越しになるのはいかがですか?

【メソッド2】城崎限定の( 小説 )で新たな客層を獲得

 では、最期にメソッド3を見てみましょう。

 【メソッド3】(???)の力で「キノサキ」を世界にPR

 そして、今、城崎温泉は、新しいジャンルへの挑戦も始めています。

 2014年、リニューアルオープンした、城崎国際アートセンター。ここは、日本で唯一と言われる、舞台芸術に特化した施設で長期滞在しながら舞台の創作に打ち込める環境を豊岡市が提供しているんです。中貝市長は「もともとこの建物は、県立の築30年以上の1000人規模のホールだったんですが、ほんとにセンスがなくて使い勝手が悪くて、使用日数が年間20日ほどのどうしようもないホールだったんです」。

かつての城崎アートセンター
かつての城崎アートセンター

 市長、厳しいお言葉ですね……。

 「よっぽど、壊して駐車場にでもしようかと思ったんですが、あるとき、フッと、劇団にタダで貸そう、と思いついたんです」

 えっ、タダ? 無料ですか? 市長は、無料で施設を貸し出すことで、世界中の舞台芸術家に城崎で創作活動をしてもらえないか、と考えました。「施設を劇団の方が無料で使えるとなると、それが城崎の魅力になって、観光客や宿泊客が増えれば、その赤字文ぐらいはすぐに取り戻せるだろう、と」。

どうしようもないホールが生き返った

 筆者も、イベントのことは少しは分かりますが、ひとつ興行を呼ぶとなると、ホールの使用料やスタッフの人件費、移動費とお金はどんどん掛かります。それを回収するためにはチケットを売らなければいけない。でも、地方都市となるとそもそもお客さんの数が少ない。結果、都市圏に興行は集中していきます。

 でも、アーティストに無料で利用できる施設を作り、そこにアーティスト自ら応募して来てもらうと、館の管理運営費以外はあまりかからないので、結果、安くアーティストに来てもらうことができます。実際に募集をかけると、制作環境も素晴らしいということで、世界中から著名な舞台芸術家たちが、こぞって城崎へやってきました。年初には、俳優の森山未來さんも、ここで創作活動をしていました。

2014年に「国際派」に生まれ変わったアートセンター
2014年に「国際派」に生まれ変わったアートセンター
 

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