こうした様々な努力のおかげで、数年前には1000人にも満たなかった外国人観光客が15年には年間3万人を超えました。その結果、一年を通してお客さんが来るようになり、見事に繁忙期と閑散期の格差をなくしたのです。
近年少し落ち着いた感もあるインバウンド需要も、ここ城崎はまだまだ伸びていきそうです。
【メソッド1】繁忙期と閑散期の差を( 外国人観光客 )で解消
続いて、メソッド2です。
【メソッド2】城崎限定の(???)で新たな客層を獲得
とはいうものの、大阪の中心地から、特急で2時間30分と、交通の便が決して良いとはいえない場所にある城崎温泉。
外国人観光客に続いては、国内の観光客になんとか足を運んでもらうため、温泉街で旅館を営む若旦那たちが立ち上がりました。通称・二世会と呼ばれる若旦那集団が、あるものを作ったところ遠方からわざわざ買いに来る人が続出する人気商品になりました。
皆さん、一体何だと思います?
……それは、なんと「小説」。それも城崎でしか買えない、ベストセラー作家が書き下ろした小説なんです。これらの小説は温泉街のあちこちのお店で販売されていて、これを目当てに城崎を訪れる観光客が増えています。
ここでしか買えないストーリー
では一体、どういうきっかけで小説だったんでしょうか?
城崎温泉は、明治から昭和にかけ、島崎藤村や与謝野晶子をはじめ著名な文豪が愛した文学の街としても知られています。そこで、13年、志賀直哉が城崎を訪れて100周年を記念して城崎でしか買えない小説『城の崎にて』を販売したのです。
これまで、短編集の中の1篇でしかなかった『城の崎にて』を単体で出版。しかも、現代人で分かりやすいよう注釈をつけました。この注釈は、用語の解説だけでなく、当時の直哉をとりまく環境や、城崎の状況などが挿絵と共に細かく書かれていて、本編よりも注釈の方が厚いのですが、このセットが驚くほど売れたのです。

『城の崎にて』を直哉が滞在して執筆した旅館、三木屋の10代目の片岡大介さんは「文学というコンテンツが城崎の大きな魅力として届くんだ!という手ごたえになりました」と話します。
そこで、今度は、「城崎でしか買えない、現代の『城の崎にて』を書いてもらおう!」と、執筆を依頼したのが、『プリンセストヨトミ』や『鴨川ホルモー』など数々のヒット作を生み出すベストセラー作家・万城目学さん。
いやいや、みなさん、いくらなんでも万城目さんは!実は、筆者、個人的にも万城目さんとは親しくさせていただいているんですが、ご本人の強いこだわりから、万城目さんは、同時に連載を何本も抱えながら書くというスタイルではなく、ひとつの作品を書き上げてから、また次の作品を書いていくタイプなのです。ですから、執筆依頼は相当苦労したと思うのですが……。すると当の万城目さんがその質問に答えてくれました。
「まず率直に面白いなぁ、と思ったんです」
そうなんですか!
「今の時代、クリックひとつで翌日に本が玄関まで届く時代に、わざわざ城崎まで行かないと、冒頭の一文字すら読めないという、本当に不親切というか、意地悪というか、それが気持ちいいと思ったんです(笑)」
いやはや、なんとも万城目さんらしい言葉のチョイスです。
こうして、1冊で何十万部も売り上げる万城目さんが、初版1000部の城崎でしか買えない『城崎裁判』を執筆しました。すると、この作品目当てに万城目ファンが全国から城崎を訪れ、『城崎裁判』を買っていくではありませんか! 予想以上のペースで本は売れ続け、あっという間に1000部が売り切れ、今では5500部を超えて売れているそうです。
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