【メソッド1】(???)への飽くなき探求
「佳酒真楽やまなか」屋号にある「佳酒真楽(かしゅしんらく)」は「佳い酒は真に楽しい」という意味だそうで、美味い日本酒をとことん追求している居酒屋です。
やまなかは今から約50年前にご主人が奥様と2人で、「酒屋兼立ち飲み」というスタイルの店からスタートしました。もちろんスタート時は、ビールや焼酎など日本酒以外の酒も数多く置いていました。山中さんは「最初、やりだした頃は何もかもが中途半端な酒屋でしたから」と当時を振り返ります。
その頃、日本は高度経済成長の真っ只中。世の中には、品質よりも生産効率を重視した質の悪いお酒が溢れていたと言います。その質の悪い酒を飲み、ケンカをする人、身体を壊す人、そんな光景を目の当たりにしてきた山中さんはある決意をします。
「本物を見直して、質の良い日本酒だけに絞ろう!」
日本酒以外を全て捨ててしまいました
そこで、山中さんは、店に置いていた日本酒以外の酒を全て捨てました。イヤイヤ、たとえご自身「中途半端」と仰っても、何も全部捨てることはないんじゃないですか! 苦労を共にした奥様は「大変やったんです!」と。そりゃそうだと思います。そして新たに取引先を探すため、夫婦2人で飲食店を片っ端から回り歩いたそうなんです。
「でも、一生懸命やったんです。そしたら、商売っておもしろいな、って思ったんです。やりがいあったよね?」との奥様の問いかけに「そやね……」と答える山中さん。奥様はさらに「お互い元気やしね?」「……よかったね」と、奥様に相槌を打つ山中さん。なんとも言えぬ独特の間合いに、大きな苦労を乗り超えた夫婦の絆を垣間見た気がします。
こうして「本物」、つまり米と米麹だけで作った純米酒のみの酒屋にこだわった山中さん。なかでも、何よりもこだわるのが「食中酒」です。
日本酒は料理と一緒に味わってこそ、美味しい。料理によって、その味わいは無限に広がる。その信念から、山中さんは酒屋にとどまらず、居酒屋という場所を作りました。そんな居酒屋で日本酒に合う料理を提供するために、毎朝5時半から店の料理人たちと一緒に近くの木津市場へ出向き、その日一番新鮮な食材を選びます。料理と、それに合う日本酒について想像を膨らませながら、市場の人とオススメの食材について話しをするのも楽しみの1つだと言います。

もちろん、料理人たちにも社長の思いは浸透しています。店長の山崎誠生さんは「より高め合える、お酒とお料理。これがピタッとハマったときは、なんとも言えない感動が味わえます。それをお客様に知って欲しいし、伝えるのが仕事だと思います」これだけのお酒の目利きと、料理のプロが自信を持って勧める料理の組み合わせですから間違いありません。
例えば、この時期おススメの牡蠣や白子など旬の味覚をふんだんに使用した「朴葉(ほうば)味噌焼き」は、熟成をテーマに作られたコクのある山形の「磐城壽(いわきことぶき)のアカガネ」と合わせることで、より味の奥行きが増すと言います。
かと思えば、こちらは三重の農家から仕入れた無農薬野菜を使ったサラダ。え、日本酒とサラダですか? これが、お酒に合わせることを計算して、味付けはごく少量のオリーブオイルと塩だけ。ほう、シンプルですね!そんなサラダには愛媛県の「石鎚」という純米吟醸。清涼感があり、スッキリとした味わいが瑞々しいサラダにピッタリなんだそうです。
料理に砂糖を一切使わない
そう、自分では思いつかない組み合わせを教えてもらえるのも、やまなかの魅力の一つ。
そんな料理に使う調味料にもこだわりがあります。何だと思いますか? それは、「砂糖」なんです。実はやまなかでは料理に砂糖を一切使いません。えぇ! 砂糖使っていないんですか? 普通、日本料理には欠かせない砂糖。しかし、日本酒本来の米の旨味や甘味を損なう恐れがあるため、あえて使わないそうなんです。でも、全く気にならない。お酒との相性が抜群で全く気が付きませんでした。それだけ、お酒の甘みがしっかり生かされているんですね。
お客さんだけでなく、大阪・豊能郡にある「秋鹿酒造」の蔵元・奥裕明さんも「ただ、酒販店として扱っていただいているだけでなく、お料理と合わせて飲んでいただけるのは最高に幸せです」と言います。

山中さんの頭の中に常にあるのは「日本酒と料理の相性」のこと。山中社長は、40年以上にわたり、今でも毎日欠かさず日本酒の試飲を行い、どんな料理に合うのかを考え続けています。その姿勢は「考える」というより、お酒の声を聞き、どんな料理に合うかを「問い続けている」という雰囲気すら感じさせます。一方で日本酒を知り尽くした山中さんがこれだけ毎日何種類もの日本酒を試飲されているにも関わらず、まだまだ可能性があるとは、あらためて日本酒の世界は奥が深いんですね。
【メソッド1】( 食中酒 )への飽くなき探求
Powered by リゾーム?