関西ローカルながら、不思議な人気を持つテレビ番組「~オトナ度ちょい増しTV~おとな会」。
そこでは、独自の手法で成功した会社などが取り上げられている。関西ならではの着眼点、ど根性、そしてユーモア―――、そのエッセンスを伝えていきます。
第17回は、全国の蔵元が絶対の信頼を置く、日本酒にこだわり抜いた居酒屋の名店「やまなか」、その社長の熱き想いをお送りします。
少し遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。大阪はMBS(毎日放送)のアナウンサー上泉雄一です。私は今「~オトナ度ちょい増しTV~おとな会」(水曜深夜0時59分から放送・関西ローカル)という番組の司会をしております。
無事にこの連載も新しい年を迎えることとなりました。今年も大阪から浪花の経営者の心意気をお伝えして参ります。よろしくお付き合いお願いいたします。
さて、新年最初の景気づけに! あるいは大事な仕事前の勝負ランチに! と、ご紹介させていただきたいのが大阪・中津にある鰻のお店「菱や」です。ランチタイムに「うなぎ食べよか?」なんてお誘いができると「大人になったな」という気がしませんか?
こちらの菱や、梅田の喧騒から少し離れた場所にあって、入り口はいい雰囲気の小料理屋といった感じの店構え。引き戸を開けると、ほんのりと鰻の香りが鼻孔をくすぐります。綺麗なカウンターに加えて、奥にはテーブル個室もあります。雰囲気からもう既に美味しそうです。もちろん、筆者もめったに行くことはなく、決して普段使いしているお店ではありません(苦笑)。ホントに気合を入れたいとき、あるいは大切なお客様との会食に限られた勝負店です。
というのも、鰻丼のお値段2380円、大阪名物「まむし」(ご飯の上に鰻が乗っているだけでなく、ご飯の中にも鰻が入っている丼)は3240円。いずれも香の物と吸い物がついての値段ですが……うむ、やはり気合の入るお値段です。
そんななか是非食べていただきたいメニューが「だし巻丼」。え、鰻じゃないの? と思った方、ご安心ください。まず器の蓋を開けた瞬間、黄金色に輝く大きなだし巻が目に飛び込んできます。このインパクトに圧倒されながら、厚みもたっぷりのだし巻をつついていくと……その下に鰻が敷き詰められています。
だし巻、鰻、ご飯の三層構造を楽しむことができる菱やの「だし巻丼」
甘みが強くなく、しっかり鰻の味を引き出してくれるタレのかかった香ばしい鰻と、ふわふわの食感のだし巻、そしてご飯をバランスよく口に含みますと、最高のハーモニーが口の中で奏でられます。だし巻、鰻、ご飯の三層構造をうまく維持しながら口に運び「うんうん、ここまで良く頑張ったぞ!」と、自分に賛辞を与え、たまにはこれぐらいのご褒美があっていいのではないか? いや、お前は本当に褒美を与えられるような働きをしたのか? と、自問自答しつつお箸が進みます。お値段にして2160円。ぜひお客様との会食にもお使いください。そして、いつの日か、こんなお店が普段使いできるような人間になりたいと、年始にひっそりと願う筆者でありました。
さて、みなさんは、お酒は飲まれますか? 筆者は、もちろんお酒は美味しく頂く派なのですが、改めて年齢を重ねると好きな食べ物が変わっていくのと同時に、好きなお酒の種類が変わっていくことも実感しております。特にここ数年は日本酒の美味しさに唸ることが増えてきました。
酒店の3階は丸ごと専用冷蔵庫
「日本酒にこだわったお店」は世の中に数多くあると思いますが、今回の主人公・山中基康さんのこだわりは日本有数と言っても過言ではありません。なにしろ、山中さんのお店がある建物は、1階が入り口で2階に全国各地の蔵元から仕入れた地酒のみを取り扱った酒店。そして4階は、そのお酒に相性ぴったりなお料理とお酒が楽しめる居酒屋。では、「3階はどうなっているか?」といいますと、なんと、山中さんは3階のフロア全体を「日本酒専用の冷蔵庫」にしてしまいました。3階の全体が冷蔵庫ですよ!
しかも、酒の種類や酒質によって3つの部屋に区切り、それぞれ温度調整がなされているんです。一番温かい部屋で、13度から14度。ここは火入れをしたお酒を中心に保管。次の部屋は5度。こちらでは、火入れをしていない、いわゆる「生酒」が中心に置かれていて、最後の部屋は、マイナス5度。ここでは、大吟醸やスパークリングの日本酒が並んでいます。ちなみに、単なる冷蔵庫としてだけではなく、お客さんも自由に入って購入することができる売り場も兼ねているんです。
それにしても、フロア全体を冷蔵庫に改築してまで徹底的に品質を管理するなんて、まさに「日本酒ファースト」徹底したこだわりです。
そこまで日本酒を愛する山中さんのもとには、よりおいしいお酒を造るために蔵元さんがアドバイスを求めに来ることもあるそうです。
みなさん、そんなご主人の経営する居酒屋さんに行ってみたくありませんか?
そこが、大阪の繁華街ミナミの喧騒から少し離れた大国町という場所にひっそり佇む「佳酒真楽(かしゅしんらく)やまなか」というお店。
「やまなか」DATA
・創業: 1998年
・社員数:2人
・年商: 約2600万円(2016年)
やまなかは、常連さんはもちろん、全国の日本酒ファンが集まる居酒屋で「酒・食事・空間」の三拍子揃った名店。その魅力は何か? とお客様に尋ねたところ「日本酒と料理の相性が抜群です!」「日本酒がお好きな方は是非来たほうがいい!」。
また「やまなか」にお酒を卸している酒蔵の1つで広島県呉市にある「宝剣酒造」の蔵元・土井鉄也さんは「私たちが作ったお酒を最高の状態でお客様に届けてくださることが、最高に嬉しく、また安心です」と、お客さんからも蔵元からも絶大な支持を得る居酒屋なんです。
社長の山中さんに話を伺うと「美味しいお酒は人を幸せにします。感激しますよね。やっぱり。そういうお酒に出合ったらね……」と、一言一言を噛み締めながらお話くださいます。
お客さんに美味しい日本酒を飲んで楽しく過ごして欲しい。そのためには何が必要なのか? 居酒屋やまなかのおとなメソッドをひも解いていきましょう!
【山中酒店の「追求」メソッド】
【メソッド1】(???)への飽くなき探求
【メソッド2】(???)で日本酒の楽しみ方を伝える
【メソッド3】(???)を楽しむための空間づくり
【メソッド1】(???)への飽くなき探求
「佳酒真楽やまなか」屋号にある「佳酒真楽(かしゅしんらく)」は「佳い酒は真に楽しい」という意味だそうで、美味い日本酒をとことん追求している居酒屋です。
やまなかは今から約50年前にご主人が奥様と2人で、「酒屋兼立ち飲み」というスタイルの店からスタートしました。もちろんスタート時は、ビールや焼酎など日本酒以外の酒も数多く置いていました。山中さんは「最初、やりだした頃は何もかもが中途半端な酒屋でしたから」と当時を振り返ります。
その頃、日本は高度経済成長の真っ只中。世の中には、品質よりも生産効率を重視した質の悪いお酒が溢れていたと言います。その質の悪い酒を飲み、ケンカをする人、身体を壊す人、そんな光景を目の当たりにしてきた山中さんはある決意をします。
「本物を見直して、質の良い日本酒だけに絞ろう!」
日本酒以外を全て捨ててしまいました
そこで、山中さんは、店に置いていた日本酒以外の酒を全て捨てました。イヤイヤ、たとえご自身「中途半端」と仰っても、何も全部捨てることはないんじゃないですか! 苦労を共にした奥様は「大変やったんです!」と。そりゃそうだと思います。そして新たに取引先を探すため、夫婦2人で飲食店を片っ端から回り歩いたそうなんです。
「でも、一生懸命やったんです。そしたら、商売っておもしろいな、って思ったんです。やりがいあったよね?」との奥様の問いかけに「そやね……」と答える山中さん。奥様はさらに「お互い元気やしね?」「……よかったね」と、奥様に相槌を打つ山中さん。なんとも言えぬ独特の間合いに、大きな苦労を乗り超えた夫婦の絆を垣間見た気がします。
こうして「本物」、つまり米と米麹だけで作った純米酒のみの酒屋にこだわった山中さん。なかでも、何よりもこだわるのが「食中酒」です。
日本酒は料理と一緒に味わってこそ、美味しい。料理によって、その味わいは無限に広がる。その信念から、山中さんは酒屋にとどまらず、居酒屋という場所を作りました。そんな居酒屋で日本酒に合う料理を提供するために、毎朝5時半から店の料理人たちと一緒に近くの木津市場へ出向き、その日一番新鮮な食材を選びます。料理と、それに合う日本酒について想像を膨らませながら、市場の人とオススメの食材について話しをするのも楽しみの1つだと言います。
もちろん、料理人たちにも社長の思いは浸透しています。店長の山崎誠生さんは「より高め合える、お酒とお料理。これがピタッとハマったときは、なんとも言えない感動が味わえます。それをお客様に知って欲しいし、伝えるのが仕事だと思います」これだけのお酒の目利きと、料理のプロが自信を持って勧める料理の組み合わせですから間違いありません。
例えば、この時期おススメの牡蠣や白子など旬の味覚をふんだんに使用した「朴葉(ほうば)味噌焼き」は、熟成をテーマに作られたコクのある山形の「磐城壽(いわきことぶき)のアカガネ」と合わせることで、より味の奥行きが増すと言います。
かと思えば、こちらは三重の農家から仕入れた無農薬野菜を使ったサラダ。え、日本酒とサラダですか? これが、お酒に合わせることを計算して、味付けはごく少量のオリーブオイルと塩だけ。ほう、シンプルですね!そんなサラダには愛媛県の「石鎚」という純米吟醸。清涼感があり、スッキリとした味わいが瑞々しいサラダにピッタリなんだそうです。
料理に砂糖を一切使わない
そう、自分では思いつかない組み合わせを教えてもらえるのも、やまなかの魅力の一つ。
そんな料理に使う調味料にもこだわりがあります。何だと思いますか? それは、「砂糖」なんです。実はやまなかでは料理に砂糖を一切使いません。えぇ! 砂糖使っていないんですか? 普通、日本料理には欠かせない砂糖。しかし、日本酒本来の米の旨味や甘味を損なう恐れがあるため、あえて使わないそうなんです。でも、全く気にならない。お酒との相性が抜群で全く気が付きませんでした。それだけ、お酒の甘みがしっかり生かされているんですね。
お客さんだけでなく、大阪・豊能郡にある「秋鹿酒造」の蔵元・奥裕明さんも「ただ、酒販店として扱っていただいているだけでなく、お料理と合わせて飲んでいただけるのは最高に幸せです」と言います。
山中さんは日本酒の試飲を40年以上、毎日続けてきた
山中さんの頭の中に常にあるのは「日本酒と料理の相性」のこと。山中社長は、40年以上にわたり、今でも毎日欠かさず日本酒の試飲を行い、どんな料理に合うのかを考え続けています。その姿勢は「考える」というより、お酒の声を聞き、どんな料理に合うかを「問い続けている」という雰囲気すら感じさせます。一方で日本酒を知り尽くした山中さんがこれだけ毎日何種類もの日本酒を試飲されているにも関わらず、まだまだ可能性があるとは、あらためて日本酒の世界は奥が深いんですね。
【メソッド1】( 食中酒 )への飽くなき探求
【メソッド2】(???)で日本酒の楽しみ方を伝える
食中酒として日本酒を味わう楽しみを、もっと知ってほしい!
そんな山中さんの思いから、やまなかでは月に1回のペースで酒と料理のイベントを開いています。普段、店に中々来られないという人のためにイベントは週末の午後に行われることが多いそうで、全国各地からお客様が集まります。
テーマも「大吟醸の熱燗と、それに合う料理を楽しむ」とか、杜氏さんを招いて「SAKE STUDY・日本酒が生まれる源泉【稲】の魅力」など、お酒と料理を楽しめる内容になっています。イベントには毎回山中さんも参加して、お客さんとの交流を持つことも楽しみの1つだと言います。イベントに訪れ、日本酒と料理を一緒に楽しむことを知ったお客さんが、後日、改めて居酒屋へ足を運ぶこともよくあるんだそうで、お客さんに日本酒の楽しみ方を知ってもらう工夫を続けています。
【メソッド2】( イベント )で日本酒の楽しみ方を伝える
続いてメソッド3です。
【メソッド3】(???)を楽しむための空間づくり
最高の状態で提供するための徹底した品質管理をする。これこそ、やまなかが全国の日本酒ファンや蔵元から信頼される理由でもあります。
日本酒と料理を最高の状態で味わってもらうために山中さんがもう1つ大切にしていることがあります。それは「居心地の良い空間」。
家で飲んでいるようにくつろいでほしい
山中さんは「居酒屋はいろんな人との出会いがあるんです。お店とお客さんとの会話があれば、お客さん同士の会話もあります。居酒屋って、そういう場所なんですよね」と仰います。
分かりますね~。居酒屋って、お酒・お料理もちろんですが、同じ割合で居心地は重要な要素で、居心地悪い店は自然と足が遠のきますよね。「佳酒真楽やまなか」は、お店の入り口を開けると最初に靴を脱ぐというシステム。スリッパに履き替えてもらうのも、落ち着いて会話を楽しんで欲しいという思いから。お客様からも「家で飲んでいるリラックス感です」と大好評。さらにリラックスできる空間を!と、内装は木を基調にした優しい色合いに加えて、大きな酒樽の蓋を使ってテーブルにし、イスも「暖気樽」と呼ばれる小さな樽にクッションを乗せて再利用するなど日本酒ファンの心をくすぐる演出もあります。
店内の椅子やテーブルには日本酒づくりの道具を再利用
従業員の皆さんも、酒や料理の説明から、何気ない世間話までお客さんが居心地良く過ごせるように心がけているということですから、そりゃ、居心地もいいはずです。心地よい空間なら会話も弾み、酒も進む。「空間」「会話」「料理」。美味しいお酒にとって大事なことです。
【メソッド3】( 会話 )を楽しむための空間づくり
では、ここで「やまなか」のメソッドをまとめてみましょう。
【山中酒店の「追求」メソッド】
【メソッド1】( 食中酒 )への飽くなき探求
【メソッド2】( イベント )で日本酒の楽しみ方を伝える
【メソッド3】( 会話 )を楽しむための空間づくり
毎回番組では、取材の最後に、「おとなフィロソフィ」と名づけて、経営者やリーダーに企業理念や経営哲学を端的に語ってもらっています。
日本酒を愛し、日本酒の良さを1人でも多くの人に感じてもらいたいと話す、佳酒真楽やまなかの山中さんに「おとなフィロソフィ」をうかがいました。
とことん追求すれば商品の声が聞こえてくる
「お酒だけとは違うんです。そこには料理が必要だし、お客様の笑顔を見たいんです。そのために、とことん追求していきたいんです。酒・料理・会話、すべてが揃う幸せな場所のために」
日本中から山中さんのお酒と料理を求め、連日大賑わいのお店を経営されながら、今なお「とことん追求したい」との思い。
かの松下幸之助さんがこんな内容を話されたと、かつて聞いたことがあります。「商品をわが子と思って考えていれば、商品から『ここをもっとこうしてくれ』との声が聞こえてくる」――とか。
山中さんの「とことん追及したい」というメッセージは、お酒や料理、またお店からの「こうしてくれ!」の声を聞き続ける思いなんでしょうね。
筆者も「おとな会」をはじめ、「自分の番組」=「商品」に対する熱い思いはあります。一方で「わが子」と思い、声が聞こえるほどまで思いを入れているか? 新しい年になり、ここで改めて胸に手を当てて考えてみます。この1年間、どんな声が聞こえてくるでしょうか?
(この記事は「~オトナ度ちょい増しTV~おとな会」2016年8月31日放送分を元に構成しました。編集:日経トップリーダー)
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