あなたの常識は誰かの非常識

 世阿弥の考え方を仕事に当てはめてみてください。みなさんは、離見の見を意識してお客様や上司、部下に接していますか。

 仕事に一生懸命な人ほど狭い業界の常識に染まりがちです。でもそんな「常識」の中には、お客様や若い社員にしてみれば、なぜそうなるのか分からない「非常識」なルールも多々あるように思います。

 日本の家電業界の存在感が薄くなっています。これはどうしてかといったら、我見に走った部分が多少あったからではないでしょうか。消費者はどんなものを求めているかをメーカーの立場から考えて、「日本製品は品質がいいから、値段も高いです」と言っていたような気がします。

 そのうち、品質もいい、値段も安いというほかの国のメーカーに顧客を奪われ、逆転されてしまった。我見だけで事を進めたから、周囲とはかけ離れた独自の進化をする「ガラパゴス化」に陥ったのです。その結果、国際競争力が弱くなったのではないかと思います。

 良かれと思って製品を作っても消費者から支持されない。常に消費者の動向を意識しながら商品開発をすべきなのです。とりわけ変化の速い現代ではなおさら。現代の私たちの課題に引きつけて考えられる視点を示しているのが、世阿弥のすごさです。

 相手のことを分かろうとする姿勢が何より重要だと思います。お客様の気持ちを理解できなかったら、ビジネスは決して成功しない。お客様の気持ちが分かれば、売れる製品やサービスが作れると思います。

 お客様はもちろん、上司や部下、同僚、家族やパートナーなど相手が誰であれ、およそ他者を理解する心に欠ける人は、仕事でも家庭でも満足感や達成感を得ることはないでしょう。どんな世界でも離見の見の視点を持ち、独りよがりにならない努力を続けていくこと。これが成長の条件なのかもしれません。

(この記事は、日経BP社『髙田明と読む世阿弥 昨日の自分を超えていく』を基に再構成しました。構成/荻島央江)

昨日の自分を超えていく――。
ライバルは「昨日の自分」。
他人と自分を比べず、「自分史上最高」を全力で追う。
ただそれだけでいつか自分がなりたいと思う自分になれる。
ジャパネットたかたの創業者・髙田明が
いつも頑張っているあなたに伝えたい成長のルールとは。

 不遇の時代をいかに過ごし、絶頂のときにいかに慢心を抑えるか。他人の評価に一喜一憂することなく、ただ、ひたすらに自分の夢を追い続けるための心構えとは何か。外見を飾り立てるのではない、内面からにじみ出る人の美しさとは何か――。

 ジャパネットたかたの創業者、髙田明氏が600年の時を超えて出会った盟友が世阿弥。能を大成した世阿弥の名言「初心忘るべからず」「秘すれば花」などを髙田流に読み解き、現代人に役立つエッセンスを紹介しています。また、能研究の第一人者、増田正造氏が監修。初心者も楽しく読めて、内容の濃い4編の解説を寄せています。

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