例えば、白と黒の絵の具しかなくても、混ぜたらねずみ色になる。新しい色を入れなくても、持っている色を使えばいいんですよ。混ぜれば全く違う世界が生まれます。きっとまだやっていないことがたくさんあるはずです。

セット販売で魅力が増す

 ジャパネットでは、テレビにテレビ台やレコーダーを付けたり、デジタルカメラとプリンターを組み合わせたりするといったセット販売をしています。商品自体は変わらないものの、セットにすることでお客様に新しい商品として魅力を感じてもらうことができるのです。

 能を観に行くと分かりますが、ほぼ決まった展開のパターンがあります。物語が前半と後半に分かれていて、後半は前半に登場した人物を見る夢が舞台上で演じられるという形式です。前半と後半の間に、狂言方の担当するナレーションが多く入るのが普通です。これは「複式夢幻能(ふくしきむげんのう)」と呼ばれる形式で、世阿弥が発案しました。今なお上演され続けている能の定型です。

 このシステムが素晴らしいのは、パターンは一緒でも演者や衣装、舞台が違えば全く別の作品になるところです。

「複式夢幻能」を知ったとき、私はジャパネットのテレビ通販番組も同じだと思いました。私が二十数年前につくった「一人語り」という基本パターンです。

 一人語りになったのには理由がありました。最初はタレントさんと話しながら進行していく形でしたが、佐世保に自前のスタジオをつくったことで毎回タレントさんに来ていただくことが難しくなりました。そこでやむなく私が一人で商品を紹介するスタイルになったのです。当時としては珍しい形式だったと思います。

 今でもこのスタイルを続けていますが、新鮮さは失われていないと思います。MC(語り手)が違うだけで、同じ商品でも見え方が変えられるのです。

 イノベーションは、ささいなことからも生まれます。みなさんも肩の力を抜いて、面白きこと、珍しきことを日々の仕事や生活の中に探してみてはいかがでしょうか。

(この記事は、日経BP社『髙田明と読む世阿弥 昨日の自分を超えていく』を基に再構成しました。構成/荻島央江)

昨日の自分を超えていく――。
ライバルは「昨日の自分」。
他人と自分を比べず、「自分史上最高」を全力で追う。
ただそれだけでいつか自分がなりたいと思う自分になれる。
ジャパネットたかたの創業者・髙田明が
いつも頑張っているあなたに伝えたい成長のルールとは。

 不遇の時代をいかに過ごし、絶頂のときにいかに慢心を抑えるか。他人の評価に一喜一憂することなく、ただ、ひたすらに自分の夢を追い続けるための心構えとは何か。外見を飾り立てるのではない、内面からにじみ出る人の美しさとは何か――。

 ジャパネットたかたの創業者、髙田明氏が600年の時を超えて出会った盟友が世阿弥。能を大成した世阿弥の名言「初心忘るべからず」「秘すれば花」などを髙田流に読み解き、現代人に役立つエッセンスを紹介しています。また、能研究の第一人者、増田正造氏が監修。初心者も楽しく読めて、内容の濃い4編の解説を寄せています。

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