世阿弥は能の世界に革新をもたらしたイノベーターとされています。その世阿弥とて完全にオリジナルの芸術を生み出したわけではないのです。

 同じ時代に人気があったさまざまな芸能を遠ざけるのではなく、むしろ能に取り入れ、自分なりにアレンジし新たな形に仕立て上げた。イノベーターであると同時に、コーディネーターだったのです。

 オリジナリティーにこだわるより、今あるものの新しい切り口を探していくほうが、今の時代に合っていると思いませんか。

機能ではなく、「歩くことの楽しさ」を伝える

 私たちがジャパネットのテレビ通販番組でやってきたことと同じです。商品は同じでも、紹介方法の切り口を少し変えるだけで売り上げが大きく伸びることがあります。ミズノのウオーキングシューズがいい例で、これまでに約70万足を販売しました。

(写真:PIXTA)
(写真:PIXTA)

 以前は、シューズの機能や、歩くことがどんなに健康にいいかなどを強調してお客様にお伝えしていました。今から思うと、「お客様に健康になってほしい」という思いはあるものの、どちらかというとお客様を説得しているような、一方的なメッセージになってしまったような気がします。これを改め、「歩くことの楽しさ」を前面に押し出す形にしたのです。

 私自身、その頃から意識的に歩くようになりました。運動不足なので、足腰を鍛えようと思い、会社ではずっとミズノのウオーキングシューズばかり履いていました。

 当時は全くエレベーターを使わず、社内のフロアからフロアへの移動は階段を利用したので、体脂肪が4%くらい減りました。それに影響されて一時10人、15人の社員が熱心に歩き始めたのですよ。

 同じように、「歩くことって楽しいですよね。私も歩いています。だからこんなに元気です。みなさんも歩きませんか」と番組でお話ししたところ、大きな反響があったのです。

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