ジャパネットたかたの新人MC(語り手)は先輩を手本に、売れたときの話し方の完全コピーから始めるという。髙田明氏いわく「自己評価と他人からの評価が一致している人ほど物まねがうまく、伸びしろも大きい」とか。『髙田明と読む世阿弥』を上梓した髙田氏が世阿弥の物まねの極意を読み解く。

先日、新聞の折り込みチラシ作りの指導をしていたときのことです。ロボット掃除機の写真を載せたチラシの案をいくつか見せてもらいましたが、どの写真も今一つぱっとしません。
私が「この写真にはどういう意図があるの? メーカーのカタログよりいい写真なの?」と聞くと、社員はみんな「カタログのアングルのほうがいい」と答えました。
なのに、なぜ自前の写真にこだわるのか。どうやら社員は「まねることはよくないこと」「人まねでは成果は出ない」と思っているようでした。
やみくもにオリジナリティーを追求すると空回りする
確かに、いつまでも姿形だけをまねていたら、進歩はありません。
それでもまずは熟練者のまねをしてみる。そして、熟練者がこの写真をどういう意図で撮っているのかを理解し、模倣する。
そこで初めて「ならば、こういう見せ方はどうか」という自分なりのアイデアが湧いてくる。この過程を踏まず、やみくもにオリジナリティーを追求しても、大抵は空回りします。
すべての独創は模倣から始まります。先人から学ぶ、歴史から学ぶ。それは芸事の世界もビジネスも変わらないと私は思っています。その過程を飛ばして、「自分はできる」と思っている人はまず成長しません。
言葉を発するときの間(ま)、手の動き、カメラにどう視線を向けるか。自分がMC(語り手)として特に気をつけていたところです。そのささいな違いだけで、売り上げが2倍、3倍変わります。
売れたときの話し方を完全コピー
ジャパネットのMCで、私がテレビ通販番組で商品紹介をしているセリフを一言一句、文字に書き起こして、しゃべりの練習をしたという社員がいました。書き起こした文章を丸暗記して、音声を消した映像を見ながら私の口の動きに合わせ言葉を乗せていく。いわば完全コピーです。大変な努力といえます。すべては物まねから始まります。個性を発揮する以前に、まずは基本をたたき込むのです。
ジャパネットには台本がありません。MCがそれぞれ自分の言葉でしゃべります。ただ、新人MCの場合、台本なしでいきなり話すことはできないので、最近は先輩MCをお手本に、売れたときの話し方の完全コピーから始めてもらっています。すると、経験の浅いMCでも、先輩社員には及ばないものの、一定の成果を出すことができることが分かりました。
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