東京地方裁判所は4月11日、大塚家の資産管理会社「ききょう企画」に対して前会長の大塚勝久氏が15億円の社債償還を求めていた裁判で、勝久氏の訴えを認めて15億円を返済するよう命じる判決を言い渡した。資産管理会社は借り入れしたり、大塚家具の株式を売却したりするなどして、返済資金の確保を迫られることとなった。経営の立て直しを急ぐ久美子社長は、この局面にどう立ち向かうのか(前回の記事は
こちらをご覧ください)。
大塚家具の経営権を巡る父娘の対立で、今度は父親で前会長の大塚勝久氏側が「勝ち」を収めた。資産管理会社が保有する大塚家具株を巡って争っていた裁判での話だ。父娘の対立は2015年3月の株主総会で委任状争奪戦(プロキシーファイト)にまで発展したが、その後、娘の久美子社長が経営権を掌握、沈静化していた。判決を機に父娘の対立が再燃することになるのかどうか、注目される。
東京地方裁判所は4月11日、大塚家の資産管理会社「ききょう企画」に対して勝久氏が15億円の社債償還を求めていた裁判で、勝久氏の訴えを認めて15億円を返済するよう命じる判決を言い渡した。
ききょう企画は大塚家具株189万2000株(発行済み株式数の9.75%)を保有する筆頭株主。勝久氏が130万株の大塚家具株をききょう企画に譲渡した際、ききょう企画が発行した15億円分の社債と交換する形で譲渡していた。2013年4月が社債の期限だったが「期限になっても償還されない」として、同年11月に勝久氏がききょう企画を提訴していた。
ききょう企画は勝久氏の妻の大塚千代子氏が株式の10%、長女の久美子氏や長男の大塚勝之氏ら兄弟5人が各18%を持つ。久美子氏と弟妹3人が支配権を握り、久美子社長体制を支持している。ききょう企画側は株式譲渡などの一連の行為は相続対策で、社債の償還期限は自動延長するという合意があったと主張していた。これに対して東京地裁の小野瀬厚裁判長は判決で、「法的な拘束力を持つ合意があったとは認められない」とし、15億円を支払うよう命じた。
焦点は、ききょう企画の実権を握る久美子社長側の次の一手に移る。
考えられる選択肢は大きく分けて、(1)株を返す(2)借金して返す(3)保有株を売却して現金を返済する――の3つ。ききょう企画の資産の大半は大塚家具の株式のため、これを手放さない限り15億円の返済は難しい。
株式返却の可能性は?
裁判を通じて勝久氏側は1番目の大塚家具株式の返却を求めていたが、その可能性はほぼない。対立している父親側に株式を渡せば、大株主としての基盤が強くなるだけで、「敵に塩を送る」に等しいからだ。2番目の選択肢は、15億円の借金をして勝久氏に返済する方法。もっとも前述の通りききょう企画の株主は一枚岩ではない。株主が対立している中で、資産管理会社として15億円の資金を新たに借り入れるのは難しいとみられる。
久美子氏が資金を個人で借りて大塚家具株を買い取り、資金返済に回す方法も考えられるが、金額が15億円と大きいだけに簡単ではないが、可能性はある。もっとも、久美子氏が直接株式を取得した場合、対立している勝久氏や勝之氏との関係が一段と悪化する可能性がある。久美子氏側についている他の弟妹の支持が得られるかも微妙だ。
3番目は保有株を第三者に売却するか、市場で売却して、その売却資金で15億円を返済する方法。久美子社長を支持する安定株主が現れれば話は早いが、現状ではそうした動きは見えていない。そうなると、市場で売却する可能性も十分にある。
市場で売却した場合、大塚家具の株価が大きく下落する可能性がある。株価が下落すると、ききょう企画が持つ株式の価値が下がり、15億円を返済するために多くの株数を売却せざるを得なくなる。もちろん、一般株主にも損失を与えかねない。
実は大塚家具は今年2月12日に100万株を上限とする自社株取得を決議している。上限の金額は18億円だ。市場にききょう企画の売却株が放出されても、自社株買いで影響を吸収できる“態勢”を敷いたとも言えそうだ。取得した自社株を将来、第三者に割り当てて安定株主を作ることも可能である。
今年2月、新宿ショールームのリニューアル発表では、久美子社長が自ら新しい店舗コンセプトについて語った
とはいえ、自社株取得を進めれば、議決権のある株式の数が減ることから、大株主である勝久氏の議決権比率が一時的に高まるという問題がある。今年3月の株主総会は勝久氏による株主提案もなく無事に済んだが、久美子社長体制を支持するききょう企画の安定株がなくなった場合、勝久氏が再び経営権奪取を狙って動く可能性も出てくる。
ききょう企画が保有する株式の議決権を失ったからと言って、すぐに久美子社長体制が崩壊するわけではない。生命保険会社や銀行など機関投資家の多くが久美子社長の経営方針を支持し、圧倒的な賛成票を与えた。仮に、来年3月の総会で久美子社長を解任する株主提案が出されたとしても、現職の社長解任には機関投資家はそう簡単に賛成できない。
もちろん、業績が極端に悪化したり、経営方針が投資家として受け入れられないものになったりすれば話は別だ。つまり創業者で大株主の勝久氏とはいえ、久美子氏を社長の座から追い落すのは簡単ではないのだ。
久美子氏は社長として、業績向上に力を注ぎ、経営方針を支持し続けてくれる安定株主を作りあげていかねばならない。コーポレートガバナンスの強化を訴えて社長の地位を固めた久美子氏は、株主や投資家への説明責任と成果向上を求められるコーポレートガバナンスの「厳しさ」を噛みしめることになりそうだ。
大塚家具の経営権を巡る騒動は何だったのか。終始、その行方を見守り続けてきた経済ジャーナリストが顛末をまとめました。渦中で、久美子社長は何を思っていたのか――その胸中に迫ります。この騒動は、どこの家庭でも、またどこの家族経営の起業でも、普通に起こりかねない問題です。そこで、経営者にとっても学ぶべき点の多かった出来事として、コーポレートガバナンスの観点からも解説します。『
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